第35話 支持基盤(8)

「うむ。どうやら君の兄君に関してだが、陛下からの勅命を受けて動いている節が見られると報告が上がってきている」

「そうなのですか?」

「うむ」

「ですが、どうしてお兄様の事に関してなのですか?」

「じつはな、王太子殿下の居場所を探っているのだが、まったく滞在場所の確認できない」

「それって……」

「おそらくだが、限られた人物だけに命じて王太子殿下を匿っている可能性が非常に高い」

「そうなのですか?」

「ああ。君は、何か知らされていないか? 王宮内で普段とは違う動きをしているのは、君の兄であり魔法師団団長であるパトリック・フォン・マルクだけなのだ」

「それは、ラインハルト様を救うことと関係があるのですか?」

「もちろんだ。君が聖女として有力者との関係性を築き地盤を作ってくれていることは、王宮側に対して強い交渉材料となる。だが、向こうの手中に王太子殿下の身柄があるというのは、こちらとしても動きが取れなくなる」

「それは、王宮側が何か不利な状況に置かれた場合、ラインハルト様を盾にする可能性があるという事ですか?」

「そういうことだ」

「そんな……」


 私が王城で暮らしていた時、あんなに私を気にかけてくれたラインハルト様を王宮側の都合で利用するなんて……。

 

 ――でも、お兄様はラインハルト様に会わせてくれると言ってくれていたから……、きっと――、間違いなく、パトリックお兄様はラインハルト様が何処にいるのか知っているはずで……。


 私は、スカートの裾を強く握りしめる。

 

「ラインハルト様が、こちらの陣営に居てくださったら何とかなるのですよね?」

「ああ、約束しよう」

「分かりました。お兄様は、ラインハルト様と会っているようです」

「そうか……」


 スッと、枢機卿の目が細まり――、


「ということは、君は王太子殿下の居る場所は……」

「分かりません」

「そうか……」


 落胆するような声で呟く枢機卿。


「ですが、安心してください。お兄様は、私とラインハルト様を会わせてくれると約束してくださったのです!」

「ほう! それは良い事ですな。――で! それは何時頃なのですか?」


 顔を上げた枢機卿。

 その瞳は、先ほどまでの落胆した様子とは異なっていて、希望に溢れているように見える。


「それは、まだ分かりませんが――」

「では、王太子殿下との接見が叶う時刻と場所が分かったら報告してくださいますか? 護衛の為に教会の者を向かわせますので」

「そこまでしなくても大丈夫かと思いますが……」

「王太子殿下の身柄を確保することは重要ですので。もし、王太子の身に何かあれば貴女が心砕き動いてきた事も全て無駄になってしまうのですぞ?」

「……それは」


 お兄様も立ち会って下さるから問題はないと思いますけど……枢機卿が言われる通り、王宮側が王太子殿下を利用しようと考えているのなら、私が王太子殿下を救わないと……。


「分かりました。場所と時間がわかりましたらお知らせします」

「はい。それでは、宜しくお願いします。それでは聖女様、馬車の用意はしておきましたので、日が暮れる前に帰宅された方がよろしいかと」

「分かりました。それでは失礼致します」


 私はエイナを供だって部屋から出ると、ずっと待機していたのか女性の司祭が頭を下げてくると口を開く。


「聖女様、馬車までご案内いたします」

「ええ。よろしくお願いしますわ」


 女性司祭に案内され、馬車に乗ったあと、しばらくすると向かい側に座っていたエイナが私をジッと見てくると、真剣な面持ちで言葉を紡いでくる。


「クララ様。枢機卿ですが、気を付けた方がいいかも知れません」

「――え?」


 いつもとは違った様子に私は驚いてしまった。




 

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