第34話 支持基盤(7)
「それでは聖女様は、こちらでお休みください」
儀式という名の大前提で、有力者関係者を治療し終えた私は、教会の女性司祭に案内されて大聖堂から別の建物である教会本部の一室に案内されていた。
室内に入り、聖女としてと教会が用意した服を脱いだあと、室内用のドレスに着替える。
「それでは失礼致します」
女性司祭が、部屋から出ていったあと、私はソファーへ座りながら小さく溜息をつく。
「クララ様」
「分かっているわ」
私は、身だしなみを崩す事なくソファーへ座りながら、エイナに言葉を返す。
枢機卿や教皇様以外には、私が聖女としての役割を担っている理由に関して知っておられる方は、たぶん極少数だと思うから。
部屋の外には、神殿騎士の方々も控えていることから、私が正式に聖女として教会に属していると思っているのは間違いなさそうだし……。
そうなると、余計な発言は控えた方がいいというのは分かる。
身体強化の魔法などを使えば普通に聴覚を強化して扉越しの話し声も聞くことは可能だから。
「エイナ。お茶の用意をしてくれるかしら?」
「畏まりました」
エイナが、お茶の用意をしている間に、部屋に通された意味を考える。
すぐに屋敷へ戻ることを示唆されていないところを考えると、何かしらの理由があると考えるのが妥当なところだけれども……。
そうなると、有力者との密会という線も考えられなくは……ないわね。
あくまでも聖女ということで認知されているのだから、そういう政治的な行動に関しては私が密会と言えど直接対応するのは、信者がどこで見ているのか分からない以上、得策であるとは言えない。
「クララ様。お茶の用意が出来ました」
「ありがとう」
私は、クララが差し出してきたお茶を口にしながら一息つく。
「お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。それよりも、何か口にしたいわ」
食事をせずにずっと回復魔法を使っていた事もあり、思っていたよりも疲れていたみたいで、少し体に力が入らない。
魔法というのは基本的に魔力を制御するために体力と精神力を消耗するため、適度な食事と睡眠が大事なのは当然のことで――。
「分かりました。何か用意致します」
エイナが、部屋から出ていこうとしたところで、扉がノックされる。
「はい」
「私だ。いいかな?」
聞こえてきた声はスペンサー枢機卿のモノ。
「どうぞ」
「それでは失礼する」
彼は部屋へ入ってくると扉を閉める。
「ああ。そのままで寛いでいてくれて構わない」
「そうですか」
私がソファーから立ち上がり出迎えようとしたところで、枢機卿が手で制してきた。
「まずは本日のお勤めだがお疲れ様」
「いえ。お互い様ですから」
「それでも、かなりの魔力を消費したのではないのかね?」
私の真向い――、テーブルを挟んだソファーに座りながら語り掛けてくる枢機卿。
「そうですね。それよりも、こちらの部屋を用意してくださったのは何か理由があるのですよね?」
「ああ。君の兄に関してだが、少し話を聞かせてもらいたい」
「――え? お兄様に関してですか?」
私が、枢機卿から聞かれると思っていた事とはまったく違う内容に思わず首を傾げてしまった。
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