第33話 支持基盤(6)

 案内された部屋へ入ると、修道女の女性達により衣服を着替えさせられた後、髪を下ろされる。

 衣は、聖女が纏う衣類で白を基調としたモノで、所々に金糸で文様が描かれている。

 それは麦を簡略化した文様で、豊潤を意味するもの。

 仕度に要した時間は、1時間ほどではあったものの、しっかりと整えられた神職たる服装で、祭事を行う教会へと向かう。

 教会関係者が利用する通路を、修道女の女性達の後ろを付いていく。

 もちろん女性の神殿騎士の方々も周りを固めている。


 大聖堂に入ったところで、大勢の人の姿が視界に入ってきた。

 全員が身なりのいい恰好をしている事から、教会が本腰を入れて支持基盤を手に入れようとしているのは伺い知れる。


「おお、お待ちしておりましたぞ。聖女様」


 仕度をする前に、衣服部屋の前で分かれたスペンサー枢機卿が、恭しく頭を下げて語り掛けてきた。

 一応、立場的には聖女と教皇の権威と権力は同等という事になっているので、枢機卿がそのような畏まった態度を取ってくる事は予想がついていたのですけど……。


「お待たせいたしました」


 私は、端的に言葉を返す。

 もちろん、大聖堂に響き渡る声で。

 今、枢機卿と対話していることは、大勢の方々に見せつける必要があるから。

 理由は、聖女として教会の仕事をしていますというアピール。

 そうする事で、教会としても権威を増す事ができるし、私の立場を大勢の信者の目の前で明確にすることで教会側も私を守るための布石にできる。


「いえ。それでは祭事を開始いたします」

「はい」


 私は、スペンサー枢機卿の言葉に頷き、彼と共に精霊神教の祭事を行う。

 主な内容は全ての万物には精霊が宿っており、その精霊の力を借りて奇跡を起こすというもの。

 あくまでも祭事の一つであり、本当に万物に精霊が宿っているかは定かではないのだけれども、大規模な奇跡を起こす前には教会の威信を見せる為に行う手続きのようなもので、複雑ではあったけれども、妃教育の一環として教え込まれていた事もあり滞りなく終わらせることが出来た。

 

「それでは、精霊神様のお力をお借りし、奇跡を行います」


 私は、そう宣言する。

 大勢の怪我や病の治療の為に来られている商人や貴族の方々に向けて。

 回復魔法で次々と有力者を治していく。

 商人の方々は、顔には出していなかったけれど、貴族の方々の中でも一部の殿方は、私を夜会に誘ってくる方もいた。

 もちろん、私には心に決めている御方がいたので、教会に属しているという建前で断った。

 大聖堂へ訪問した方の治療を全て終えたところで、ステンドグラスから零れ落ちる日差しは、夕焼けを呈していた。


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