第12話 一縷の望み(2)

 廊下を静かに歩く。

 誰にも知られないように裸足で音を立てずに――。


「あっ……」


 曲がり角まで来たところで、私は思わず足を止め、さっき通ってきた通路を戻り、角を曲がったところで顔だけ出す。

 すると、赤髪のメイドのエイナが此方をチラリと見てきたあと何事もなく通り過ぎていく。


「よかったわ。気がつかなかったみたいね」


 小さく呟きながら、私は通路を慎重に歩き2階へと上がる階段までたどり着く。

 そして階段裏に、存在する扉をそっと静かに開けて中へと入る。

 階段の裏には、人ひとりが歩いて通れる分だけの広さがある通路が存在していて、装飾などもされていないし、絨毯なども敷かれていない。

 理由は、使用人が主に使う通路であって、館の主人が使う通路とは別物だから。


 私は通路を歩き、数分ほどで一つの扉を見つける。

 扉を開けると階段があり、上の方へと続いているのが見て取れた。

 

「ここで、合っているのよね?」


 始めてくる場所という事もあり、私は階段を鳴らさないように歩を進めていく。

 そして、2階を通り過ぎて屋根裏部屋へ到着したところで広間に到着。

二つの扉が視界に入る。


「えっと王宮で読んだ恋愛小説だと、一つが殿方用の部屋に通じていて……、もう一つが女性用なのよね?」


 どちらが、どちらか分からないので、まずは手前の扉を開けて中を覗く。

 扉の先は屋根裏部屋の通路と言うこともあり、天窓から光が入ってきているからなのか思っていたよりも明るくて、歩きやすい。

 通路へと足を踏み出し、右手に扉を発見。

 ドアノブを回して中へと入ると、殺風景な風景ではあったけど、整理が行き届いている部屋。


「えっと……」

「お嬢様、何をしているのですか?」

「――え? エ、エイナ!? ど、どうして、ここに!?」

「クララ様が、何やら変なことをしていたようですので、遠くから見ていました」

「そうなのね……」

「それよりも、どうして、このような場所に?」

「……ちょっと、使用人は、どういう生活をしているのかなって……気になって……」


 私の言い訳に、深くエイナは溜息をつく。


「これを――」


 エイナは何を思ったのかメイド服を差し出してくる。

 それは新品のモノで。


「え?」


 私としてはメイド服を手に入れる事が出来るのは嬉しいけど、何だか違うと思う。

 そもそも、私がメイド服を欲しいのは、教会に行くためであっても、町に行っても変に思われない為のカモフラージュに過ぎない。

 つまり、ここでメイド服を渡されても意味がない……。

 

「お嬢様、メイドの仕事に興味があるという事でしたので、今から町に買い物に行きますので、ご一緒にいかがですか? 気分転換にもなると思いますので」


 そのエイナの提案に私は頷き承諾することにした。




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