第13話 一縷の望み(3)

「ねえ、エイナ」

「どうかいたしましたか? クララ様」

「えっと……、公爵家の馬車を使って市井に向かうのは、目立つのではないのかしら?」


 私は、幼少の頃から両親から離されて王宮で暮らしていた事もあり、王宮の外で王宮内の方々が、どういう生活をしているのかは、妃教育で習ったこと以外は知らない。

 でも、教育課程で教えられた内容としては、基本的に王家と契約している特権を持つ行商人が直接、商品を届けていると教えられてはいた。

 

 ――でも、それでも……、理解できることはあるのです。


公爵家の馬車を利用するという事は、話は御者の方から執事長の方へと上がるはず。

むしろ、そうではないと管理責任を追われる可能性があるため、間違いなく報告はいくと思う。


「そうですね。ただ、今現在、利用しているのは私でございます。クララ様が、ご一緒に同乗しているという事はありません」

「そういうことなのね」


 つまり、エイナが馬車を利用するという事にして、私を一緒に連れていくと。

 

「でも……、エイナが怒られてはしまわないの?」

「そのあたりは、うまく説明しておきます」

「そう。どうしても難しいようなら、私が無理を言ったと――、命令したと話してくれればいいから」

「これでも、マルク公爵家に仕えまして、それなりの期間が過ぎております。ですから、ご安心ください」

「そう……」


 馬車は、貴族の館を建てられている区画を抜け――、貴族街へと出る。

 貴族街は、王宮御用達の商人が店を構えるだけでなく、貴族が治めている領地の産地を販売する御店などが軒を連ねている。

 妃の教育の一貫として、一度だけ赴いた事がある平民が利用する平民街とは違い派手さはないけれど、落ち着いた雰囲気の中に垣間見える高級感。

 そして利用する客層も基本的に貴族家に仕えるメイドや執事、もしくは貴族の子弟だけ。


「時々、貴族街には来てはいるけれど、一般の方にも開放すればいいのに……」

「平民へ解放すれば、それは店の品格の低下に繋がりますので」

「それは分かっているわ。――でも、殆どの御店は利用客は殆どいないわよね」

「はい。ただ、貴族街に店を構えているという事実だけで実績になります。そうすれば、平民が利用する市場に店を出しても売れますので、とくに問題はないのです」

「そうね……」


 馬車は貴族街を抜け――、そのまま王都の中心部へと進む。

 いつの間にか馬車は、両脇には綺麗な並木道が続く真っ直ぐに伸びる道を走っていた。


「ねえ、エイナ」

「はい。何でしょうか?」

「今日は、用事があるって聞いたのだけれど、どこまで向かうつもりなのかしら?」

「教会まで行く予定です」

「教会に?」


 エイナの言葉に私は首を傾げる。



 

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