第5話 迫力美人さんが仲間になりました。

「大丈夫ですか?」


 私は、ヒールを使いながら、声をかける。

 しばらくヒールをしていると、女性が、うめき声を上げながらゆっくりと瞼を空けていく。


「ここは……私は、一体……」


 どうやら死んではいないみたいで、一安心。

 もしかして、さっきの私の攻撃で記憶が!?


「――こ、ここに倒れていたのを偶然見かけて!」

「そう……なのか……。すまない! 迷惑をかけてしまって! 先ほどまで森の中で川を探していたところ……」


 目の前の赤髪の女性は立ち上がり両腕を組みながら首を傾げる。


「そのあとの記憶が……」


 どうやら、雷系統の魔法でショックから記憶が飛んでいるみたい。

 これは好都合ですね。

 話しを有耶無耶にしておきましょう。


 ――それにしても……。


 キリッ! と、した目つきといいスゴイ迫力美人さん。

 身長も、私より頭一つ分大きいし、胸も二サイズほど大きい。


「どうかしたのか?」

「――いえ。スタイルの格差社会に打ちのめされていたところです……」

「そうなのか。おっと! 自己紹介を忘れていたな! 私の名前は、エリザベート・フォン・クラウンと言う」

「あっ、わたくしは、アリーシャ・フォン・ハイデンブルグと言いますわ」

「「……」」


 二人して思わず見合ってしまう。


 どこかで聞いた名前。

 クラウン家と言えば、聖剣の勇者の家系と同じ家系名。


「えっと……、エリザベート様は、もしかしてクラウン家の――」

「違う! 違うぞ! 聖剣の勇者の家系ではないからな!」

「そうなのですか……」


 ここは、あまり突っ込みを入れない方が良さそう。


「それよりも、アリーシャ・フォン・ハイデンブルグと言えば、ラッセル王家に王妃として嫁ぐ予定の――」

「な、ななな、何を言っているんですか! 気のせいですよ! 名前が似ているだけの他人の空似です!」

「な、なるほど……」


 私の説明を、エリザベートさんは簡単に信じてくれたので良かったです。


「それより、エリザベートさんは、どうして、こんな危険な場所にいるのですか?」

「それは、こちらが聞きたい事なのだが……。君はワンピースしか着ていないように見えるが……。どうやって、この森を……」

「「……」」


 二人して無言になってしまう。

 そして――、なんて答えようかと考えていたところで最初に口を開いたのは、エリザベートさんから。


「私は、無理矢理! お父様に婚姻を決めさせられようとした所を逃げ出してきたんだ! 私は、この剣一本で! 世界で最強になるという目標があるからだ!」


 背中から、クレイモアを抜き放ったエリザベートさんは力説してくる。


「あ、私もそんな感じです! 赤魔導士で一人前になって将来は賢者になりたいなーって」

「おお! アリーシャ殿も、自分の力で生きて行きたいと思っているのだな!」

「はい。そんな感じです」


 とりあえず話を合わせておきましょう。

 ちなみに赤魔導士は、魔導士と聖女の力を低い水準で使う事ができる魔導士の事で、冒険者の中では、もっともポピュラーな位置づけと王宮で習ったことがある。

 そして、高い水準で両方の魔法を使うことが出来るようになったのが賢者さん。

 さらに、その上の上級職として大魔導士や聖女というランクが存在している。


「なるほど、それでワンピース姿のは得心がいった! 最初は、頭のおかしな人物が無謀に手ぶらでラッセル王国でも最も危険な森に自殺志願で入ったのかと――」

 

 あまりな言いよう。

 ただ、ここは話の流れに沿っておくのがいいかも知れないですね。


「ご迷惑をおかけします。それでは、私は用事がありますので、このへんで――」

「まあ、待ちたまえ」


 私の肩を掴んでくるエリザベートさん。


「まだ何か?」

「じつは……恥を忍んで頼みがあるのだが……」


 何か嫌な予感しかしないです。


「迷宮都市に向かっているのだが――、どうも迷ってしまったらしく……、アリーシャ殿も、魔の森を抜ける道を選んでいるのなら、修行をしながら迷宮都市までいくのだろう?」

 

 ――いえ。そんなことは、つゆほどにも考えてはいないです。

 ただ、国境を超えたら、私の居場所がバレてしまうので森を抜けるルートを選んでいるだけですが……と、言う事を言う訳にはいかないので!


「よくご存じですね」

「まぁ、これでも勘は良い方だからな!」


 えっ? 何を言っているのか私には分からないのですけれど?

 さっき森の中で迷子になったとか、ご自身で仰られておられましたよね?


 ――と、いう突っ込みは心の中で思ったのだけれど、口には出さずに!


「それでは、一緒に行きますか?」

「ぜひ! それでは、私の名はエリザと呼んでくれ!」

「あ、はい。それでは私のことはアリーシャでいいので……」


 何だか変な人が同行するようになってしまいました。




 

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