第11話『ツッチー、大地に立って三年後と少し後、マンドラゴラの育成状況(2)』


騒ぐとはいえ毎晩ではない。


満月の晩になると這い出してきて、別のマンドラゴラとケンカするのだ。


夜中にこっそり騒ぐオモチャであれば可愛げがあるが、微妙に体つきや顔が違う植物もどきが地面を指ししめしながら、ォオオォォ、オォォオ、と奇声を発して殴り合いのケンカをする。


妖精と家の窓からその様子をこっそり観察していた結果、アレは互いの縄張りを主張しているのではないだろうかという結果になった。


それをふまえて、翌朝、オレが浸食支配のスキルで、それぞれのマンドラごとに一定の距離をあけて移動させた。


畑も拡張せざるを得なかったが、これにより夜中に騒がれて起きる事もなくなった。


また、当初は鼠算的に増えてしまうとこの島がツッチーアイランドではなく、マンドラダラケ島になってしまうのでは? という危惧も生まれたが、どうも繁殖するのはサッちゃんと他にごくごく一部のマンドラゴラだけだった。


繁殖するマンドラゴラに共通するのは頭にクローバーではなく、蒼い花が咲いたものだけである。


マンドラゴラ百株に対して、花の咲く株は一つ程度。とてもレアである。


そしてトラブルはまだ続く。続いてしまう。


繁殖元となるマンドラゴラ、つまりサッちゃんを含めた頭に花が咲いているヤツラ、これらを仮に花株と称するが、別々の花株から繁殖したマンドラゴラ同士が近くにいると大ゲンカになる事がわかった。


もはやかつての縄張り争いで騒いでいた殴り合いどころではないレベルで。


頻発したケンカはやがて小さなイザコザではおさまらなくなった。


なんと花株たちはそれぞれが生み出したクローバー株たちを従えて抗争を始めたのだ。


夜中、妖精と窓の外からそれをこわごわと眺めていたが、実に凄惨だった。


拾った木の枝を腰だめにしたクローバー株たちが標的に向かって確実に”とり”にいく光景には、仁義などなく阿鼻叫喚である。


だが実際の所を言うと、オレはまだこのあたりまでは楽しんでいた節もある。


毎晩の事ではないし、満月の夜だけの限定イベントだ。


朝顔っぽい花の株から生まれたクローバーを朝顔組、カーネーションっぽい株から生まれたクローバーたちをカーネーション組とか呼んで、朝顔組のテツがカーネーション組のサダにタマとられた! などと脳内で物語を作って遊んでいた程度には余裕があった。


しかし抗争が続くと、イヤでも目に入るものが増えた。


特に満月の夜、その翌朝はひどい。


目が覚めて家から出ると、そこらじゅうに苦悶の表情を浮かべて絶命? しているマンドラゴラが散乱している。


朝食の果実をとりに果樹園に出向けば、たわわに実った果実の隣に、絶命したクローバー株が首吊りされている。


妖精も自分の花畑に、頭から逆に埋められたクローバー株がいくつも刺さっていればゲンナリするのも当然だ。


片づけるのはもちろんオレだ。


これはマズいという事で花株ごとに畑を分けて、朝顔組、カーネーション組、ひまわり組、などと集落をつくる事にした。


しかし中でも特に勢力が強いのは、最初の花株であるサッちゃんのバラ組だ。


もとはと言えば、全ては彼女が生み出した株であるのだが、花株たちは親とも言えるサッちゃんにも牙をむく。


まるで島の女王の座をかけて争っている様相ではあるのだが、サッちゃんが生み出したクローバー株達は強い。


他の花株が生み出したものより体格もいいし、顔つきもどこか精悍なのだ。武闘派とでもいうべきか。


その後、サッちゃんと、それ以外の花株たちが結託してシマを取り合う大抗争が始まった。


以降、満月の翌朝のたびにオレ達はひどい光景を朝から見せられ、渋い顔をしながら片づけをするハメとなる。


そしてまた、今夜あたりが満月ではないかという日がやってきた。


花株たちの緊張感も高まっており、今夜もひどい戦いが繰り広げられるだろう。


明日の朝には、また家の周囲にマンドラゴラのちぎれた腕やら足やら頭が転がっているに違いない。


考えるだけでイヤになる。


そもそもなんでウチの近くで戦争を始めるのか、コレがわからない。


「オレ……もう、あんなの片づけたくないんだけど」

「アタシも手伝うだけでシンドイ。どんちゃん騒ぎを見てると面白いんだけど……それ以上にうっとうしいわ」


というわけで。


全会一致の多数決により、オレ達は日が沈む前に引っ越した。

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