第10話『ツッチー、大地に立って三年後と少し後、マンドラゴラの育成状況』

「うーむ。ちょっと手狭になってきた」

「けっこう場所とるわね、この子たち」


現在、我らが豪邸の平屋南向きの周辺を説明すると、玄関正面の庭に妖精の花畑。


裏手の北側、少し離れたところにオレの果樹林。


これは景観と実益を考慮した結果である。


どうしても木々の背が高いので、お日様の登る方に配置すると日当たりが悪い。


西側にはまだ何もなく、そして東側にマンドラゴラ畑がある。


オレ達は今、そこでうなっている。


色々と予定外の事が起こったのだ。


「これ以上、広くするのもなぁ」

「もう増えて欲しくないんだけど。にぎやかというか、ちょっとうるさいわ、この子たち」


枯れたマンドラゴラを持ち帰ったあの日。


さて、どうするかと考えていたところ、マンドラゴラは魔力を吸う植物だという妖精からのアドバイスを受け、オレの魔力が濃く染みているだろうと家の近くに植える事にした。


また、ビジュアル的に考えてもしかして呼吸とかするかもしれないと思い、顔が露出するように埋めておいた。


肺や呼吸器官があるとは思えないが、なんせここはファンタジーな世界である。


そうしてマンドラゴラを植えた翌日。


さて、どうなっているかと見に行くと、ムンクのあの絵のごとく絶望した表情だった顔のマンドラゴラは、まるでダイエットが終わってカラアゲでもたらふく食べたかのような幸せに満ち満ちた顔になっていた。


しおれていた頭の花もみずみずしさを取り戻し、蒼いバラが咲いていている。


これで引っこ抜いたら、叫び声をあげるのだろうかとも考えたが、それもかわいそうなのでそのままにしておいた。


そもそも安易に引っこ抜いたらオレもヤバいのでは? という疑問も今更ながら沸いてきた。


さらに翌日。


頭のバラが大繁殖していた。


ところどころに蒼いバラをつけたトゲのあるツタが、頭からぼうぼうに生えて伸びている。


なんだろう。


まるで子供がいたずらで花を飾った日本人形が埋まっているようだ。


女の子かどうかわからないし、そもそも植物に性別などあるかもわからないが、サダコ――通称サッちゃんと命名したコレには栄養も足りているようだし、なんかもう触りたくないカンジだったので、さらに放置しておいた。

まぁ、これがいけなかった。


さらにその翌日。


生き埋めの生首のごとく出ているサッちゃんの頭からバラの花をつけたツタがさらに伸び、周囲の地面に放射状になってびっしり伸びていた。


よくよく見るとツタの先端は地面に潜っており、そこからさらに新しいマンドラゴラの葉? 芽? らしきものが出てきている。


形状は三つ葉のクローバーで、たまに四つ葉が生えている。


これは……増えているのだ。


たった二日か三日でこの増え方は恐怖を感じる。


元凶であるサッちゃんを見ると顔がつらそうだ。


生みの苦しみとでもいうのだろうか。


端的にいってホラーである。


危機感を持つべきだと思うのだが、なにせ退屈な島暮らしの日々、刺激のない生活である。


妖精と二人して「このままにしたらもっと増えるかな?」「煮たり焼いたりしたらおいしいかも?」なんて、のんきな会話をしていた。


そんな危機感のなさは、増えまり伸びまくったサッちゃんのツタが、我が平屋の壁に這い上がってきた時点まで続いた。


さすがに採光用の窓にまでツタがのびてきたあたりで、これはもうダメだろうと何かしら対処する事にした。


いや、壁や窓にツタがからみつく、これだけならまだ許容範囲だが他に実害も出てきたのだ。


――こいつら、夜中に騒ぐのである。

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