第十章

 要……どうして、私たちを殺した?


 あなたには期待していたのに。


 残念だ。


 うるさい……黙れ!


 両親の血まみれの手が要に迫る。


 よけても何度も伸びてくる。


 ついに、捕まってしまい首をしめられた。


 要は酸素を求めて喘ぐ。


「か……様、な……様、要様!」


 隣で寝ていた那智の声で要は夢から現実に戻ってきた。


 那智は要と澪の従姉妹でもある。那智の白い肌には紅い華が咲いている。周囲には情事後の気だるい空気が漂っていた。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

「そういえば、澪について新しい情報があります」


 那智は要の頭をなでる。


「澪について?」

「はい。あの須田あかりという少女を仮とはいえ、支配下にしたそうです」

「ふぅん。あの戦闘能力すらなさそうな少女を仲間に入れたか。それで、俺たちからは逃げられると思うなよ」


(澪を戦闘の場所に引きずりだしてやる……!)


「要様。私は何があってもあなたについていきます」

 

小さい頃から苦悩してきた要を、見てきたからこその言葉だった。話し合いで解決しようとする澪とは違う。


 澪の甘い考えは要たちが身をおく世界には通用しない。


 弱い者は強い者にかられる。


 死ぬか。


 生きるか。

 

 それが、要の生きる世界だった。


「私は澪を倒す」

「私は野田兄妹をやります」

「どういった作戦でいくか」

「狙いは須田あかりでしょうね」

「那智も同じか」

「弱いところを狙うなんて要様らしいです」

「それを、私からとったら何が残る?」


 澪と同じブラウンの瞳が凶悪に光る。


 見慣れている那智ですら鳥肌がたった。期待でゾクゾクと身体が震える。


(やはり、この人は王になるべき人だわ……!)


「そうですね。それを、とったら要様ではなくなってしまいます。武器の用意をしてきます」

「――那智」

「はい」

「お前は私を裏切らないと信じている」

「要様。大丈夫です。私は裏切らないですし、どこにもいきません」


 那智と要の耳には龍が描かれたピアスがついていた。澪の元には帰らないという二人の意思の現われだった。


 二人が契約をしている証でもある。


 例え、この身が朽ちてしまっても。


 この世界から消えてしまっても。


 覚えてくれている人がいなくなっても。


 私は最後まであなたの傍にいます。


 あなたと戦います。


 それが、私が生きている理由です。


 執事としての役目です。


 那智は要の手に自分の手を重ねた。


 要は那智の唇を奪う。


 慣れた手つきで着た服を再び脱がしていく。


「んっ――ァ」


 那智は目を閉じて、甘い吐息をこぼす。


 冷えきった身体に熱がともっていく。


 二人の姿を朝日が照らしだしていた。

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