第五章
「――舜」
裏口からでようとした舜は、澪に声をかけられた。
誰にも言わすに立ち去ろうとしていたのに。
見事に澪にとめられてしまった。
しかも、けがをしているというのに。
要に銃で撃たれて傷つけられて、身も心もボロボロのはずなのに。
身体は悲鳴をあげているはずなのに。
無理をさせてしまっていた。
ふらついている身体を、舜は支えた。身体が熱をもっている。かなりの高熱だった。
薬を飲んでいてもこれだけ熱が高ければ、しんどいはずである。立っているのも精一杯だろう。
澪は本橋家に所属する医師に手術の依頼をしただけで、一週間で仕事に復帰した。
部下である涼と文を信頼しているからこそだろう。澪が信頼している相手は、かなり限られている。
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「澪様。その身体で動いては、傷にさわります。休んでください」
「今まで、両親を守ってくれて感謝している。舜がいたからこそ、本橋家はやってこられた」
舜はピアスを外した。
分身をもがれたようだった。それほど、このピアスは舜にとって大切なものだった。
「これは、舜が戻ってくるまで預かっておく」
澪は大事に箱に入れてしまう。
「――澪様」
「舜が悪いわけじゃない。堂々としておけばいい。そうだろう?」
「ですが、私を擁護すると澪様の立場が悪くなります」
「気にするな」
今は何も考えなくてもいい。
ゆっくりと傷を治してほしい。
心を癒やしてほしい。
疲れきった身体を休めてほしい。
舜を解放すること。
それが、今の澪が舜にできる唯一のことだった。
そして、再び会える日を待っている。楽しみにしている。
心待ちにしている。
「いつでも、戻れるように整えておきます」
それが、最強の執事と呼ばれている者のプライドだと。
己の誇りだと。
その誇りは執事界を離れても消えることはないだろう。
「舜。この別れはさようならではないと思っている。だから、さようならは言わない」
「澪様。お戻りください」
見ていた涼が声をかけて、澪の身体を支える。澪を涼に身体を預けていた。
舜は澪の姿が見えなくなるまで、頭をさげ続けた。
************
「舜お兄ちゃん。ボーとしてどうしたの?」
舜は澪と別れた時のことを思いだしていた。子供たちが心配そうに舜を見あげている。
「ごめん、ごめん」
舜は子供たちの頭をなでる。
「ねぇねぇ、鬼ごっこしようよ」
一人の子供が舜と手をつないで、グランドへ走る。
「舜お兄ちゃんが鬼ね」
走り出した子供たちを舜は追いかけた。
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