第五章

「――舜」


 裏口からでようとした舜は、澪に声をかけられた。


 誰にも言わすに立ち去ろうとしていたのに。

 

 見事に澪にとめられてしまった。


 しかも、けがをしているというのに。


 要に銃で撃たれて傷つけられて、身も心もボロボロのはずなのに。


 身体は悲鳴をあげているはずなのに。


 無理をさせてしまっていた。


 ふらついている身体を、舜は支えた。身体が熱をもっている。かなりの高熱だった。


 薬を飲んでいてもこれだけ熱が高ければ、しんどいはずである。立っているのも精一杯だろう。


 澪は本橋家に所属する医師に手術の依頼をしただけで、一週間で仕事に復帰した。


 部下である涼と文を信頼しているからこそだろう。澪が信頼している相手は、かなり限られている。


******************


「澪様。その身体で動いては、傷にさわります。休んでください」

「今まで、両親を守ってくれて感謝している。舜がいたからこそ、本橋家はやってこられた」


 舜はピアスを外した。


 分身をもがれたようだった。それほど、このピアスは舜にとって大切なものだった。


「これは、舜が戻ってくるまで預かっておく」


 澪は大事に箱に入れてしまう。


「――澪様」

「舜が悪いわけじゃない。堂々としておけばいい。そうだろう?」

「ですが、私を擁護すると澪様の立場が悪くなります」

「気にするな」


 今は何も考えなくてもいい。

 

 ゆっくりと傷を治してほしい。


 心を癒やしてほしい。


 疲れきった身体を休めてほしい。

 

 舜を解放すること。

 

 それが、今の澪が舜にできる唯一のことだった。


 そして、再び会える日を待っている。楽しみにしている。


 心待ちにしている。


「いつでも、戻れるように整えておきます」


 それが、最強の執事と呼ばれている者のプライドだと。


 己の誇りだと。


 その誇りは執事界を離れても消えることはないだろう。


「舜。この別れはさようならではないと思っている。だから、さようならは言わない」

「澪様。お戻りください」


 見ていた涼が声をかけて、澪の身体を支える。澪を涼に身体を預けていた。


 舜は澪の姿が見えなくなるまで、頭をさげ続けた。


************


「舜お兄ちゃん。ボーとしてどうしたの?」


 舜は澪と別れた時のことを思いだしていた。子供たちが心配そうに舜を見あげている。


「ごめん、ごめん」


 舜は子供たちの頭をなでる。


「ねぇねぇ、鬼ごっこしようよ」


 一人の子供が舜と手をつないで、グランドへ走る。


「舜お兄ちゃんが鬼ね」


 走り出した子供たちを舜は追いかけた。















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