好みの酒

(プロジェクトで大きな成果を上げた企画部。部門の打ち上げ飲み会後)

部下a「部長、二次会行きましょう! 部長がいらっしゃって初のビッグプロジェクト、部長あってこその成功ですから!」

部長A「いや、私は何もしてないよ。今回の成功は完全に君たちの力だ。

 悪いが今日は二次会は辞退しようかな。一次会でちょっとビール飲み過ぎたようだしね」

部下b「そうっすかー。残念ですが、じゃあうちらで目一杯祝っときます!」

部下軍「じゃお疲れ様でしたー!」

課長B「(何か言いたげなのを抑え)……では部長、お疲れ様でした。酔いは大丈夫ですか?」

A「大丈夫だ。ビールは大分飲んだが好物のウイスキーはこれからだからな」

B「……は?」

A「(浅く微笑み)もし都合悪くなければ、この後少し付き合わないか」


(Aの行きつけのバーのカウンターで)

A「いい酒が揃ってるだろう? 好きなのを頼んだらいい」

B「(緊張でカチカチ)…………あ、あの、済みません……この状況、まだちゃんと飲み込めてなくて……

 これ、一体どういう……」

A「(さらっと)この前の礼だ。マスター、マッカランをロックでふたつ」

B「……この前?」

A「ああ。

『あなたの言葉なら全部信頼できる』と、君が言ってくれただろう。あの時のな」

B「……え、あんなことで?

 全然当たり前のことじゃないですか」

A「(ふっと微笑み)君は本当にそっち方面のセンスがポンコツなんだな。

 男は、そういう言葉こそが嬉しいものだろう。女性に捧げるような甘い口説き文句などよりも、遥かにな」

B「……そ、そうでしたか……そっか、そうですよね……

 そういや同性を、しかも上司を口説くなんて初めてで。なんだか無我夢中で、しかもあなたのむちゃくちゃな塩対応にムキになっちゃって」

A「はは、口説き文句80パターン一挙公開には度肝を抜かれたがな。

 だが、君の発想力は一見破茶滅茶だが、実に面白い。その企画力があれば、やがて私など軽々と超えていくだろう。これからが楽しみだ」

B「…………

 ありがとうございます。そう言っていただけて、本当に嬉しいです。

 けれど、済みません。僕はやはりあなたと、仕事以外の話がしたい。会社では見せないあなたの顔が見たい。デスクでは聴けないあなたの声が聴きたい。どうしても。

 こういう僕の想いに一切見込みがないならば、今ここでそう言ってください。あなたはやはり僕の想いなど届く人ではないと、すっぱりそう切り替えますから」


A「……(ちらりとBを見てグラスを傾け)やればできるじゃないか、少しは」

B「——は?」

A「(素っ気なく)アホくさい口説き文句なんかよりも、今の君の真剣な顔の方が余程ぐっとくる」


B「…………」

A「で、もう諦めるのか? でかい魚はそう簡単には釣れないぞ」

B「——諦めなくても、いいんですか」

A「だから。もう少し敏感になれ。今日こうして私に誘われても、君の竿は何の手応えも感じないのか?」


B「…………(ぼっと赤面)」

A「小手先の器用さなど必要ない。君の気持ちが真剣なら、ありのままの君で私を落としに来なさい。そういう君になら、揺さぶられてもいいかもしれない。

 ほら、私の気に入りのウイスキーだ。氷で薄まる前に飲んでみろ(美しく微笑)」


B「……

『ああああーーー嬉し過ぎて返事が返せない……ってかここにきて自分の竿がものすごくヤバい……!!』」


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