リベンジ

(部長Aの執務室)

課長B「(分厚いファイルを手にして入室)失礼します。新規プロジェクトに関する企画案が出来上がりましたので、内容をご確認ください」

部長A「(デスクから顔を上げ、ファイルを受け取る)ああ、例の件だな。今回のプロジェクトは従来と違う新たな方向へ踏み出す足がかり的な企画だが、部門内の方向性はまとまってきてるか?」

B「実際のところかなり揉めてます。出てくるものが何だかどれもこれもつまらないアイデアばかりな気がして、今回は思い切って僕自身の案も躊躇せずどんどんぶち込んでみてます。従来と全く変わらない陳腐な仕事にはしたくないと思ってますので」

A「…………(Bにちらりと視線を向け、ファイルの内容を黙々と確認)

『……うあーこれ……ところどころギラッとしてるの、絶対こいつの発案箇所だろ。ちょっと見ただけではっきりわかる。斬新ってかアグレッシブっていうのか?

 これまでの俺だったら、こんな危なっかしいのは即却下だ……

 だが……それでいいのか? こいつのこういうアイデアこそが本当に求められているものなんじゃないのか……

 凡庸な俺、300点のこいつ……営業部長Dのヤローの話が頭から離れん……

 まずいぞ。これほど自分の自信が激しくぐらつくなんて思ってなかった……!!』」


B「……部長? 何か書類にミスがありましたか?」

A「あ、いや。違うんだ。ただ……」

B「(ニッとして)何でも言ってください。部長からどんな厳しいご指摘をいただけるのか、ずっと楽しみにしてたんですから」

A「楽しみ?」

B「ええ。社内に名を轟かせる超有能な企画部長から見て、僕の仕事がどの程度評価されるのか。具体的にどこが悪くてどこがいいのか。それが聞けるの、ワクワクしないわけないでしょう? あなたの言葉なら、僕は全部信頼できます」

A「…………(Bをじっと見つめる)

 私の判断は、君にとってそんなにも信頼に足るものか?」

B「は? 何言ってんですか部長。あなた普段もっと嫌味なほど自信満々な人じゃないですか。初日に僕にコーヒー持って来させた傲慢ぶりはどうしたんです? あのくらいのあなたでいてもらわなきゃ、むしろがっかりだ」

A「(ぎっと強い視線で)リベンジのつもりか」

B「(爽やかに微笑)いえそんなつもりは少しも。純粋に本心です」


A「…………

 わかった。私からの指摘部分をまとめておく。手加減は一切しないから覚悟しておけ」

B「ああ、いいですね。ゾクゾクします。ではよろしくお願いします(深く一礼して退室)」


(部長A、静まった執務室でしばし呆然)

A「……(ぐわっと赤面してガシガシと髪を搔きむしり)おいちょっと待て、何だ今の展開は!?

 で、何なんだこの感情の動揺は!!?

 ぐあああああーーおかしいぞ俺!! しっかりしろ俺っっ!!!」


B「(執務室から廊下を戻りつつぶつぶつ)ってか口説き文句新しいのまだ一個もできてねえなー……はぁ」



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