本気で悩む

(イケメン有能課長B、自分のデスクで仕事)

部下女子C「課長、会議資料できましたのでご確認ください」

課長B「(資料を受け取る)ありがとう、チェックしとく。

 あ、ねえ君、これどう思う?(Cの前に無造作に例の口説き文句80パターンを置く)」

部下C「え……(中身を見て)これは……?」

B「見ての通り口説き文句だ。80パターンある。それほど駄作揃いだろうか?」

C「……(ドギマギ)い、いえそんなっ駄作だなんて……っていうか、このうちの1パターンを受け取っただけで、お相手の方は喜びで卒倒するんじゃないかと……」

B「え、そんなに? 無理に褒める必要はないよ」

C「……(ぽっと頰を赤らめ)っていうか、口説き文句の内容云々よりも、課長から言われることそのものに価値がある、というか……♡」

B「(頬杖をつき溜息)だろー? 僕もそうだと思ってたんだけどなー。思えばいつも百発百中だったから、こういう経験なくてパニックモードなんだ。ちなみに、君はその80パターンのうちどれがいい?」

C「……(ますます赤くなり)わ、私ですか!? えっと……こっ、これとか……」

B「(美しく微笑む)ああ、それね。じゃあその案、君にあげるよ」

C「……えっ……この言葉を、私に……!?(瞳からハート流出)あっ、ありがとうございます!! 信じられません夢みたいです!!」

B「ボツになった案で申し訳ないが、好きに使ってくれ。

 あ、引き止めて悪かったね」

C「は、はい! では……(課長の最後の一言など全く聞いておらず、夢心地で頭を下げデスクを去る)『……ああ、私にもとうとう春が……私今、超イケメン有能課長にすごく遠回しに口説かれてる……!!!』」


(その夜、会社の幹部会議終了後。ダンディ部長Aと同期のバリバリ美女営業部長D、バーで一緒に酒を飲みながら)

A「最近とんでもなく恋愛センスのない奴にアプローチされててな」

D「えっ、なにその面白い話!?」

A「ってかアプローチ法があまりにアホで呆れ返ったというか……仕事は超有能なんだけどなー」

D「へえ、アホなアプローチってどんなのよ?」

A「80点レベルの口説き文句を用意できたら考えてやってもいいと、軽くいなしたつもりで言ったら本気にされちゃってさ。ひと月後に口説き文句80パターンを持ってきた。1ヶ月間毎日睡眠時間を2時間削って作ったらしい。全部パソコンでパカパカ打って印刷して『1パターン1点でもトータルで80点のはずです』って」

D「ぶっ……ギャハハハー!! 何その面白っぷり!? すんごいぶっ飛んでるけど、そんなに頑張ったなんてよっぽど本気なんじゃないその子!」

A「気持ちはわからんでもないが、0点だろフツーに。あ、作業時間の努力分5点やったけどな」

D「えーー。何その超つまんないリアクションー。おしゃれなシチュでお利口な口説き文句披露して80点取る子なんて、フツーすぎて面白くもなんともないじゃない。どうせならその子みたいにぶっ飛んだ発想で300点取る人の方がいいなー私は」

A「…………(キッとした目でDを見る)は? 俺の発想が凡庸だというのか?」

D「そうよ、凡庸もいいとこ。あんただってそんな人並み外れてやらしい濃厚オーラ撒き散らしてるんだから、人にばっかり80点とかつまんない点数求めちゃダメよねー?(ぐいっとマティーニ3杯目を開ける)」

A「…………(忌々しげにブランデーのロックを呷る)『なんだと……あいつのアレが300点の発想力だというのか……で、有能な企画部長であるはずのこの俺がつまらない……!!? そ、そんなの嘘だ信じられない……!!』」

D「あら真面目に悩んでるわー珍しい。もしかして思った以上にその子が気になるとかかな? あ、マスター同じのおかわり」

A「(バンっとテーブルを叩き青筋を立てる)んなわけあるかっっ!!!」



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