爽快感
「若林くん、久しぶり。
高校卒業以来だから20年ぶりよね。相変わらずモテるんでしょ。ねえ、隣いい?」
「うん、久しぶり、赤城さん。隣どうぞ」
「きゃー、若林くんじゃん! 変わんないね〜。向かい側、いい?」
「久しぶり、青山さん。あ、そこどうぞ」
「青山さんも久しぶり。元気そうね」
「赤城さん、久しぶり! めっちゃ高級そうなスーツだねそれ、かっこいい〜。今何してるの?」
「◯△システムで企画部にいるの。毎日こき使われてもー忙しくて。青山さんは?」
「うあ〜一流企業の企画部なんてすごーい。私なんか専業主婦だよー。ダンナが病院の院長引き継いだばっかりで、家の中大忙しで。やっと今日時間少しもらってきたの」
「へえ、すごいじゃない」
「二人とも、すごいんだねえ。……あ、来た来た。こっちこっち」
「ちょっと遅れちゃった……あ、ここ、いいの? なんだか割り込むみたいになっちゃわない?」
「いや、全然。こっち隣空いてるから」
「……あら、
「あー、頭良くて超真面目だった海野さんだ! 久しぶりー」
「青山さんも赤城さんも、久しぶりだね〜。二人とも、何だかすごく綺麗になったなあ」
「あなたは全然変わらないわね。相変わらず地味で」
「あはは、海野さん、昔とおんなじ分厚いメガネかけてるー。高校の制服着て三つ編みとかしたら、まだ女子高生でイケるんじゃない?」
「……えへへ、コンタクトとかあんまり合わないみたいで。結局これが一番落ち着くんだよね……ダサいのはわかってるんだけどね」
「えー、全然ダサくないよお。海野さんらしいっていうか」
「ねえ、私も青山さんも近況報告したんだし、若林くんの近況も聞きたいな。今何やってるの?」
「ん? 僕は、出版社で編集」
「へえ……出版社って、どこの?」
「□☆書房」
「え……嘘!? 大手じゃない!?」
「すっごーい。さすが若林くん! 仕事してるとこ、見てみたいなあ。作家さんにも人気ありそう〜」
「そうでもないよ。現に横にいるこの人にちょいちょいこき使われてるしね」
「……え?
横の人、って……?」
「だから、海野さん」
「……だって、彼女にこき使われる、って、一体どういう……」
「ちなみに、彼女のペンネームは、『
「…………は?
って……あの、小説家の……」
「え!? 嘘でしょ!? 私、本持ってるんだけど……」
「本名の『海野
「で、今は彼女は『海野 環』じゃない。『若林 環』だ」
「…………」
「僕は、高校時代から文芸部だった彼女の描く物語に強く惹かれていた。大学2年で賞を獲り小説家デビューした彼女を追って、□☆書房に入社したようなものだからね。
決死のプロポーズに彼女からOKもらった時は、嬉しくて死ぬかと思ったよ」
「もー、恥ずかしいから同窓会ではあんまりいろいろ喋らないでって言ったじゃない!!」
「ごめん。でも、ちゃんと言わなきゃ分からなそうな空気だったからさ、つい」
「…………
あの……
できたら、サイン、もらえますか……?」
「わ、私も、お願いします……」
「えー、二人とも急に敬語とかやめてよ、ほんとに!」
「あー、すっきりした。まさに20年越しの爽快感だな。ビールが美味い、はははっ!」
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