Adult Love

aoiaoi

嫉妬しない女

「あなた、久しぶりね。

 病院のベッドでずっと過ごしてたら、ちょっと寂しくなっちゃって。お仏壇のあなたの写真持ってきてって、浩輔に頼んだの。ヒロカちゃんも来月結婚式よ。浩輔、娘を嫁がせるのがちょっと寂しいみたい。うふふ。

 時の経つのは早いわねえ。

 あなたは、いつも青空の下でそうやって笑ってる。呑気よねえ。


 今だから言うけれど。

 私ね、本当は知ってたのよ。若い頃、あなたが2回浮気してたこと。あなたは隠し通したつもりだったんでしょうけど……女の勘を甘く見たわね、ふふ。

 でもね。あなたに恨み言を言いたいんじゃないの。

 そうじゃなくて……昨日の夜、一人で天井を見上げていたら、気づいたの。謝らなければならないのは、私の方だって。


 私ね、ずっと好きな人がいたの。

 中学校の同級生で、気の弱い私をいつもかばってくれた。

 私より少し大きいくらいだったのが、中学2年の夏休みが明けた途端、びっくりするほど背が伸びてて。

 涼しい目元が急に大人びて見えた瞬間、心臓がばかみたいに暴れたの。


 どれだけ好きでも、結局は私の片想いだと、ずっと思っていたんだけれど——

卒業式の日に、彼、学生服のボタンを一つくれたの。誰にも気づかれないように、こっそりね。

『俺を忘れないでほしい』って。


 その日から、彼には一度も会っていないわ。

 それでも、彼は私の中から決して消えなかった。

 中学の3年間で彼が私に残してくれたたくさんの笑顔が、言葉が、声が——時間が経てば経つほど、私の中でキラキラ輝くの。


 お見合いで出会った優しいあなたと人生を歩けて、私は幸せだったわ。

 けれど、あなたの浮気相手に、私がこれっぽっちも嫉妬しかったのは——それだけ私が残酷な女だった、ということなのよ。

 私の中には、別の人が住んでいた。その証拠なの。


 そのうち、私もそちらへ行くのでしょう。

 あなたにまた会えるのが待ち遠しい。

 それにね。

 少し前に、彼もそちらへ行ってしまったみたいだから——。


 そちらには、結婚も法律もないんでしょう?

 決して雨の降らない雲の上を、みんなでのんびり散歩しましょう。うふふ。


 ——そろそろ眠くなってきたわ。

 おやすみ、あなた。また明日ね」





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