第47話 これからの話

「ただいまー」

「ぐすっ……ただい……うええぇん……」


 セーフハウスまで戻ってきても、シエラは全然泣き止まなかった。


「おかえ……シエラ、ちょっと泣きすぎじゃない?」

「だっでぇー……」


 出迎えてくれたセリカもドン引きするくらいだ。まあ話を聞くかぎり、今までずっと堪えてただろうからな、今は思いっきり泣くのも良いだろう。


「お疲れですリック様! シエラさんも――えっと、お、お疲れです……?」

「リゼ、シエラを寝室まで連れて行ってくれ」


 困惑するリゼにシエラの介抱を任せ、俺は先延ばしになっていた話をすることにする。


 シエラが連れていかれる時、俺の事を呼んでいたが、少し我慢してもらおう。


「さてセリカ、二人は?」

「ちょっと出かけてるよ、ここを引き払うから何かと入用なんだよね、セリカで良ければ話を聞くよ?」

「ん、まあセリカでもいいか、霧の結界内から今まで何があったのか教えてくれ」


 そう、今ちょっとドタバタしていて聞きそびれていたが、なんで俺が生きてるのかとか、訳の分からないことが沢山あるのだ。


「あーそれね、セリカも詳しいことは分からないんだけど、それ含めてアベルがリックと話したいことあるんだって」


 なんだろう。状況の説明はしてくれるものだと思ってたけど、他に何があるんだろうか。



――



 経緯を聞き終わったところで、アベルとサイゾウが買い物から帰ってきた。俺は彼らを談話室まで呼び、椅子を四つ用意した。


 アベル、サイゾウ、セリカ……


 メンバーが集まったところで、話が始まる。(シエラは不意に泣き出しそうだったので、リゼと一緒に二階で休んでもらっている)


「で、なんか話があるんだって?」


 なるべく落ち着いた調子を見せつつ、俺は話を切り出した。


「ああ、僕らとリックの今後についてだ」

「今後? 別にこのままだろ、まあシエラとのいざこざは無くなったから、もうちょっと仲良くやれるとは思うけど」


 シエラ達も問題なく冒険者として活躍できているし、俺自身もソロ冒険者としてそれなりの実績を積むことが出来た。特に何かあるとは思えなかった。


「いや、確かにそうなんだが……」

「シエラ白金旅団を中心に連合を作ろうと思ってな、信頼出来て自由に動かせる駒が欲しい」


 言い淀むアベルの言葉を引き継ぐように、サイゾウが淡々とした調子で言う。


「駒?」

「こちらから信頼できる人間に声を掛けていくつもりだが、末端にまで目を光らせられるかと言えば、それは出来ない。常に監視しろとは言わないが、必要な時に動かせる手駒がいる」


 なるほど、大規模な組織を作るなら、統制をしっかりする必要があるな、つまりそういう事か。


「じゃあ、もしそれを受けたら俺は、肩書にシエラ白金旅団連合所属ってつくわけか」

「いや、それも付かない」


 エルキ共和国以外でも仕事しやすくなるな、と思いかけたところで梯子を外されて、俺はずっこけた。


「悪く思わないでくれ、巡視員が堂々と名乗りを上げても、警戒されるだけだろう」


 ああ、確かに……ん? という事は、今までと何も変わらないじゃないか。


「ちょっと待て、それだとわざわざ俺にそんな話持ってくる必要ないだろ。事が起こるたびにギルド経由で連絡してくれればいいじゃないか」

「まあそうなんだが……一個だけ問題があるんだ。エルキ評議会と契約しているだろう? そのせいで君は目立つんだよ」

「……あ、ちょっと待って、嫌な予感した」


 目立つのは不味い、それはそうだろう。もし「これから監査しまーす」は無いにしても「すごく有名な冒険者が近くをウロウロしまーす」なんて言ったら、相手を警戒させるだけだ。つまり、目立たないためには名を挙げるわけには行かないのだ。


「ああ、大体想像通りだ。そういう事になる」


 うーん……そうなるか。


 エルキ共和国に留まって、そこの人たちを助ける人生と、自由気ままな旅を再開して、手の届く範囲でギルドの依頼をこなす生活……


「もちろん、僕たちも出来る限りの協力はする。受けられる依頼は旅団と同様のランクまで出来るようにするし、必要なら旅団で集めた資産も使っていい」


 エルキ共和国は悪い国ではないが、そこで名を挙げすぎるとオース皇国やイクス王国へ行けなくなる。放浪すればその縛りは無くなるが、無名のまま不安定な生活をすることになる。


「……一晩、考えさせてもらって良いか?」


 すぐにどちらにするかは決められない。俺はゆっくり考えるための時間が欲しかった。


「もちろんだよ、君は病み上がりだ。そんなタイミングで話して済まないと思っている」

「いや、こういうのは締め切りが近くなるより早く教えてくれた方がうれしい。ありがとう」


 頭を下げるアベルに、俺は笑顔を返した。

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