第29話 小鬼退治をしよう

「おい! リック、今日こそ私がお前を負かしてやる!」

「だから、他人と競ったりどっちが勝った負けたってのは嫌いなんだって……」


 先日の一件から、ウィルは事あるごとに俺に突っかかってくるようになった。周囲の冒険者たちも貴族である彼が、ギルドに出入りしているのを興味深そうに見ていた。だが、数日も経ってそれが日常になると、興味を失ったように溶け込んでしまった。


「お前が嫌だろうが私がそれでは収まりがつかんのだ! さあ、この依頼を私と受けろ!」


 そう言ってウィルは依頼書を見せる。西の森で大量発生した土巨人の討伐……


「どうだ、これなら危険性も低いし――」


「リゼ」

「はいっ、何でしょう?」

「ヤガーと話したい、スライム出して」


 ウィルの言葉を遮って、恐らく依頼の原因を問いただすことにした。


「はいはーい、出てこいぽよちゃん!」


 そう言ってリゼは懐から観測用スライムを取り出す。


『……何?』

「最近、土巨人を作り過ぎたか? ギルドに依頼が来てるぞ」

『……!? 自動錬成陣、忘れてた。消しておく』


 スライムの向こう側でガチャガチャという音が聞こえ、しばらくして通信が切れる。


「……うん、解決したな」

「そんなわけあるか!」


 確認するのも面倒なんだが、ウィルは言っても信用してくれないだろうな……


「うーん、でもその依頼はやめておこう、別の依頼なら受けるから」

「言ったな!? 今すぐ持ってきてやるからちょっと待っているんだ!」


 ウィルはそう言って掲示板の方へ戻っていく、元気だなぁ……



――



 そういうわけで俺たちは、町から離れた位置にある洞窟を訪れていた。


「ついたぞ、ここが小鬼(ゴブリン)の棲む洞窟だ」

「見ればわかる……見張りは二人か」


 少し離れた位置で、俺とリゼ、そしてウィルは入り口に立つ歩哨を観察していた。


「それにしてもリック様、いくら多数討伐の依頼が無いからって小鬼狩りをしなくても……」

「まあ、タイミング的にアレしかなかったからな」


 小鬼は数が多いものの、個々の戦闘力は低く、初心者向けの魔物だ。


 ちなみに受けた時、隣で若手の駆け出しパーティが「なんで俺らの依頼を取るんだ」的な顔をしていた。悪い事をしたような気がしたので、土巨人の討伐依頼を回しておいた。ヤガーには伝えてあるので二、三体は出るだろうが、まあ安全な依頼だろう。


「ふん、では、どちらが多く討伐証明を持ってこれるか勝負だ。いいな?」

「ああ、それでいい」


 ウィルは俺の気遣いを尻目に、意気揚々と小鬼たちの方へ向かっていく。どうやら小鬼ごときに作戦など不要、って事らしい。


「私が先行させてもらうぞ! 竜炎っ!!」


 超火力の火属性魔法で敵を薙ぎ払いつつ、ウィルは洞窟へと入っていく。


「リック様! 私たちも行きましょう!」

「……いや待て、リゼ、俺たちはゆっくり行こう」

「了解です! 頑張ってついて行き……って、良いんですか?」


 張り切って飛びだそうとしていたリゼを諫めて、俺はゆっくり立ち上がる。


「勝ち負けには興味ないって言ったろ、あいつが満足するなら接待プレイもするさ」


 ウィルはそこまで魔力保有量が多くないように見えた。つまり今からフルスロットルで討伐していると、確実に息切れする。


 もし俺がここで同じように狩っていたとすれば、ウィルの取り分が減り、後々で持久力のある俺が有利になり、勝ってしまう。


 だったら、俺が出遅れたことにして最大限狩らせて息切れしたところで、追いついた風を装って残りを討伐すれば、討伐数的には負けて、何の角も立たずにウィルの興味は逸れるはずだ。


「そういうわけだから、俺たちはあいつのサポートに回るぞ」

「なるほど了解ですっ! ゆっくりついて行きましょう!」


 ウィルが洞窟の奥へと進んでいくのを確認して、俺たちは生き残った小鬼にとどめを刺して奇襲を警戒しつつ、慎重に奥へと進んでいく。


 焦げ臭いにおいと小鬼特有の腐臭が鼻をつく、俺は思わず顔をしかめた。


「酷い臭いですね……」

「まあ仕方ない、見た目は人型だが、中身は獣だからな……ん?」


 俺はウィルが通った後に、奇妙な印が掘られた木製の装飾が燃え残っていることに気付く。


 俺はそれを拾い上げて、印を詳しく調べる。


「……」

「リック様?」


 印をよく見ると、どこかから鹵獲してきたものに石か何かで傷をつけてできたもの、つまり小鬼自身が付けたものだと分かる。


「リゼ、ちょっとペースを上げよう」

「へ? りょ、了解です。でも、なんで……?」

「理由は追々はなす……とりあえず今はウィルに追いつこう」


 俺の経験と知識から導かれる予測が正しければ、これはちょっと厄介なことになりそうだ。

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