第28話 ウィル・アルマーズが来た! 後編
「遅かったな、逃げ出したかと思ったぞ!」
清算を終えてギルドから出ると、ウィルは腕を組んで俺を待ち構えていた。
「……嘘だろ?」
清算はそれなりの時間がかかる。その間に諦めるなりして帰ってくれると思ったんだが、彼はどうも律儀な性格らしく、ここでずっと待っていたのだ。
「さあ男と男の決闘だ! ……おっと、その前に」
ウィルはポケットから小さな球体を取り出し、それを放り投げた。
球体は空中に浮かんだまま、俺とウィルの間で静止して結界を展開する。決闘用の簡易アイテムだ。
「さあこれでどちらかが参ったと言うか気絶するまでお前は出られなくなった! さあ、どこからでもかかってくるがいい!」
この結界は物理的・魔法的に外界の干渉をシャットアウトし、被害が周囲に及ばないように、相手を逃がさないようにするための物だった。
結界の広さは精々一〇メートルほど、戦うには申し分ないが、あまり強力な魔法を使うと自分まで被害が及びそうだし、実は連鎖魔法を人相手に使うのは初めてだ。加減を間違ったらどうしよう……
「動かないか、では私から行こう! 竜炎(ドラゴンブレス)っ!」
ウィルが魔法を唱えると、まさに竜種の息吹というべき巨大な炎が俺へと迫ってくる。
「回復、岩鎚っ!」
「何っ!?」
目の前にある地面が裏返り、竜炎を受け止める。俺も随分レベルが上がった。あの程度のマスタリーレベルなら、二連鎖程度で凌げるようだ。
「おい貴様! なんだその魔法は!?」
「基本的には回復属性Lv1『回復』と地属性Lv1『岩鎚』だけど……ちょっと説明が難しい」
ちなみに竜炎はLv5だ。高レベルの魔法を初級魔法二つで防げるのだから、やはり連鎖術はすごい。
「ふざけるな! そんな筈が無いだろう! 竜炎っ!!」
「回復、岩鎚っ!」
再び連鎖魔法で受け止める。これなら何度やっても結果が出なそうだ。
「っ~~!! 貴様! さっきから防御してばかりではないか! 攻撃してみたらどうだ!?」
「いや、人相手に使うのは危ないから……」
例えば水弾>火球の水蒸気爆発を使ったとしよう。着弾の時点で肉塊になりかねない。まして岩鎚>風切>水弾で竜巻を発動させようものなら、結界の内部がそれはもう酷いことになる。
「魔法を人相手に使うのが決闘だろう!? 貴様やはり私を馬鹿にしているな!? 竜炎っ!!」
「回復、岩鎚っ……仕方ないな、怪我しても知らないぞ?」
ちょっとすごい連鎖を見せれば、どうせ戦意を喪失するだろう。俺はそう考えて連鎖を組む。威力は高く、それでいて周囲の被害が少ない魔法……
「火球、雷撃、風切――」
火球を雷属性で成形、強化し、超高温となった炎を指先から噴出させる。更に風を送り込み、威力を強化する。
「溶断刀(ヒューズカッター)っ!」
指先から放たれた超高温の炎はすさまじい光と共に結界の核である球体に命中する。
「な、なにをしている!? 無駄だぞ、その結界核には単属性への耐性が――」
ウィルが言いかけた時、結界核が大きな音を立ててひび割れ、そして砕け散った。
「あるは、ず……なんだが……」
「こんなもんでいいか? 力比べとか喧嘩なら俺以外にやってくれよな」
砕け散った球体を、呆然と眺めるウィルに忠告して、俺はリゼと一緒にその場を後にした。
「リック様、お疲れ様です!」
「ありがとう、リゼ……やっぱり、人相手に使うのは緊張するな」
本来あれは上級竜種の鱗さえ貫く威力だ。
貫通したり勢い余ってウィルに当たらなくてよかった。
――ウィルの独白
信じられない。
どうせ冒険者、強い魔法を見せれば怖気づいて降参するだろうと思っていた。
しかし、実際は逆だった。単属性魔法では壊せないはずの結界核まで壊したのを見て、あの男は只者ではないと分かってしまったのだ。
しかも、本気を出していないように見えた。彼は一体どんな力を持っているのか……
だが、私は屈するわけには行かない。
どうにかあの男を負かせて、クラリス嬢の心を私に向けなおさなければ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます