第27話 ウィル・アルマーズが来た! 前編

「火球、風切、岩鎚――溶岩弾(メルトストーン)っ!!」


 風属性により強化された火球が石のつぶてを溶かし、灼熱の弾丸となって敵を襲う。


「……ふぅ、このくらいかな?」

「そうですね、ここら辺にはもう動くものは無いみたいですよ、リック様」


 俺はリゼに周囲を確認してもらい、安全となったのを確認してから手を下ろした。


「連鎖術にも随分慣れてきたな、最近はむしろこの戦い方以外はどう戦ってたのか分からないくらいだ」

「魔法に複合属性を与えられるのはリック様だけですからねぇ、普通はパーティを組んでやるものですよ、それ」


 評議会からの依頼では複数属性に耐性のある魔物が多く、単体属性魔法で戦うのは無謀とも言えた。


 昔戦った三頭狼(ケルベロス)なんかもそうだが、水属性が弱点だが火属性が強すぎるため、水属性の魔法に耐性があるように振る舞える。そんな魔物が世の中には存在する。


 大体そういうものは、複数の魔法職が協力して倒すか、属性付与された武器を持ち替えるみたいな方法が主流らしい。そういえば、シエラもセリカも武器をいくつか持ってたな……当時は「気分によって使い分けるのかな?」とか思っていたが、こういう事だったのか。


「まあ、帰るかー、そろそろ等級が上がってもいいと思うんだが」

「今は銀等級冒険者でしたっけ?」

「いや、銅だよ、やってることとしては金等級だけどね」


 等級判断には実績の他にも活動期間が考慮される。明日いきなり死ぬ事もある職業だ、長く生きていればそれだけで実績、なんてこともある。


「早いとこシエラ達に追いつかないとな」


 彼女たちは白金等級だ。そこから道を分かれてソロで活動するんだから、せめて個人で金等級くらいの称号を得ないと恥ずかしい。


 討伐証明を剥ぎ取って、俺はギルドへ向けて歩き出した。



――



 ギルドに到着すると、何やら物々しい雰囲気になっていた。


「リドリー氏と懇意にしている冒険者は何処に居る!?」


 しかもどうやら俺の事で騒いでいるらしい。


「リック様は人気者ですねっ」

「いや、これ絶対厄介事でしょ……でも、なんで俺を探してるんだ?」


 こそこそと冒険者たちの後ろを回りこんで、騒動の中心を覗き見る。


「この私、ウィル・アルマーズが直々に来てやったのだぞ! 顔くらい見せないか!」


 見えたのは、瑞々しいブロンドヘアーと碧眼のいかにもな貴族だった。年は割と近そうだが間違いなく知り合いではない。


「よし、達成報告は明日にして帰ろうか、リゼ」


 俺は途轍もなく嫌な予感がして、そばに居るリゼに声を掛けてギルドを後にする。こういう輩は関わらないのが最善手だと俺は知っている。


「いいんですか?」

「大丈夫大丈夫、ああいう奴は『お前調子乗ってんな』くらいしか言わないから」

「むっ! そこっ! 今私の悪口を言ったな! 誰だ!?」


 じ、地獄耳かよ……


「はぁ……リックだよ、ここでソロ冒険者をやってる」


 俺は諦めて自己紹介する。クラリスもだけど、なんでこんな特徴的な人ばっかり俺に寄ってくるかね。



「リック……リック! そうか、貴様がクラリス嬢をたぶらかすならず者だな!?」

 色々と反論はしたいが、俺は黙ってウィルと名乗った青年の口上を聞いてやることにした。いちいち突っ込むよりも、全部聞き流したほうが楽そうだ。


「今まで彼女は私と恋仲だったのだ! それを貴様が現れてからいつも! 毎回! どんな時も! 貴様の話しかしない! リックならこうした、リックならこれくらいできる、リックなら分かってくれた! これがたぶらかされたと言わずなんという!?」


「フラれた、ですかねぇ……」

「シャラップ! そこの奴隷!!」


 あまりに哀れだったので言わないで置いたことを、リゼは言ってしまう。可哀そうに……


「とにかく! 私はお前に勝負を挑む! 決闘だ、表に出ろ!」


 そう言って、ウィルはギルドの外へと出ていく。


「……よし」

「リック様、どうするんですか?」

「無視だ」


 俺は彼が外へ出ていくのを見届けて、窓口まで行って依頼の清算をお願いした。

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