第三章
閑話:シエラ白金旅団の夜
夜、ギルドのロビーでシエラ達四人は明日の依頼について話し合っていた。
「そうだな、次の作戦はシエラと僕で目立った攻撃をして、セリカとサイゾウで確実に仕留めていく方向で調整しよう」
シエラ白金旅団の弱点は、騎士職の不在が大きかった。サイゾウの回避によるタンクも可能であったが、ヘイト管理が難しく、人数差が開きすぎた戦闘では彼の負担を考えて、別の作戦を立てることになっていた。
「そうね、ちょっと相手の数が多すぎる。セリカもそれでいいかしら?」
シエラは、あの一件から憑き物がおちたように、仲間と協力して物事を進めるようになっていた。それをアベル達はリーダーの成長と捉えていて、嬉しく思っていた。
「いいよーシエラ、サイゾウと一緒にまたいつもの奴をやればいいんでしょ?」
闇狼と拳闘王には身体の急所を貫いて対象を即死させるスキルがある。これは効果の割に目立たない為、戦闘での実用性はかなり高かった。
「ね、サイゾウもそれでいいでしょ? あれ、サイゾウ?」
「済まない、ギルドの広報誌を取ってきていた」
ギルドは各都市、各国家間の情報共有の為、毎月広報誌を刊行していた。そこには基本的な情報の他、どこの都市で誰が活躍したか、等級が上がったパーティ、各ギルドの紹介などが書かれており、それを確認するのは冒険者として必須の事だった。
「別にいいわよ、それより何か面白いこと書いてあった?」
「ああ、先月のギルド功労者欄になじみのある顔があってな」
翌日の作戦会議を軽く切って、シエラはサイゾウに報告させる。情報収集が得意なだけあって、こういった誌面から必要な情報を拾い上げるのが、彼は得意だった。
「へえ、金鹿傭兵団が白金等級に上がったとか?」
「まあ、見てみろ」
サイゾウに促され、シエラはパラパラと広報誌をめくり、功労者一覧のページで手をとめた。
「えーと何々、エルキ共和議会公認となったソロ冒険者リック……ええっ!?」
「なんだって?」
「やるじゃんリック!」
広報誌に三人が殺到する。紙面にはしっかりとリックの姿とその奴隷、リゼの姿が映っていた。
「なるほど、僕たちも負けていられないね、シエラ……あれ?」
「……」
アベルの問いかけに、シエラは応えなかった。ただ身体をわなわなと振るわせ、ぶつぶつと独り言を喋っている。
「すごいね、リック、セリカ達も頑張ろう! ね、シエラ明日頑張ろ――」
「うわーーん! 誰よこの子ーーー!!!!」
ギルドのロビーに、シエラの悲壮な絶叫が響き渡った。
――
「落ち着くんだ、彼女はリックの奴隷で彼女だとかそういうんじゃないから」
セーフハウスまで戻り、アベル達は全員でシエラをなだめていた。
「ぐすん……わかった」
その甲斐あって、シエラは何とか落ち着きを取り戻し、アベルの言葉にうなずく。
「それにリゼちゃん良い子だったよ、セリカもすぐに友達になっちゃった。シエラもきっと友達になれるよ」
「うん……」
「今日は寝ておけ」
「うん……ぐすっ……」
サイゾウの一言で、シエラは自室へと戻っていく、残った三人はそろって大きなため息をついた。
「そうか……リゼさんが居たことを忘れていたな」
「リックって超絶鈍感だからねー、こういう当てつけみたいなやり方、完全に無意識なんだろうなー」
「とはいえ、某たちの前ではシエラも随分素直になった。それは喜ぶべきではないか?」
口々に話をするが、それらは深刻さは一切なく、むしろ微笑ましさを感じられた。
「そうだな、以前だったら三日は機嫌悪いままだった」
「シエラは子供っぽいところあるからねー」
三人は苦笑いし、こんな話をできることに感謝した。
「じゃあ、僕たちも寝ようか」
「明日早いしねー、アベルは寝坊しないでよ」
「某も今日は寝させてもらおう」
挨拶を交わし、三人は自室へ戻っていく、静かな解散だったが、そこには暖かな仲間意識があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます