第23話 連鎖魔法の真価
そこを流れる川は意外にもかなり流れが速く、上で聞こえていた水音は、遠くから聞こえていただけに過ぎないと分かった。
十メートルほどある川幅を底が見えないほど暗い水が、会話を遮るほどの轟音を立てて流れるさまは、さすがに恐怖を感じる。
「すごいな……」
「すごいですね……」
一方その景色を見る俺たちは、語彙力が無くなっていた。
いや、だってこの景色見たら……自然ってすごいなぁ……しか言えないって。
『何、してるの……こっち』
スライムが跳ねて、川上の方向へ進んでいく。俺たちはごつごつした岩を乗り越えて、その後をついて行く。
「結構、けわしい道のりですねっ……」
「と言っても、クラリスの為だ、頑張ろう」
俺たちはほぼ崖のような斜面を登ったり、岩の隙間で躓きかけたりしつつ進む。
そのうちに、太い根を持つ植物を見つけた。
周囲には植物は生えておらず、地面から顔を出している根はごつごつとしている。ヤガーから聞いた特徴通りだ。
「あった! アレか!」
俺は坂道を登り切り、アレロダイコンを慎重に掘り返す。
「……よし、取れた!」
傷つけないよう丁寧に掘り出して、表面を水で洗うと、紙筒を上からグシャッと潰したような形が見えた。表面はくすんだ緑色で、とても大根には見えない。
『……うん、大丈夫ね』
観測用スライムに一部を与えて、ヤガーに判定をしてもらう。よし、じゃあ後は帰るだけだな。
「リゼ、ようやく手に入った。帰ろう……リゼ?」
振り返って、俺はリゼの声が聞こえないのは、轟音にかき消されている訳ではないことに気付いた。
――
「ぶはっ……リック様!」
足を滑らせ、私は川に落ちてしまった。
リック様はアレロダイコンの採取で気付いていない。そもそもこの水音じゃ叫んでも気づいてくれるかどうかすら怪しい。
「助けっ……がぼっ、助けて!」
それでも、必死で彼の方へ叫ぶ。
助けてほしい。死にたくない。怖い。
あらゆる感情が噴出して、私は半狂乱で叫び、もがく。
それでもリック様へ声は届かず。距離はどんどん離れていく。
「リック様! リッ――」
流されるうち、川の中ほどにある岩に身体をぶつけて、私の意識は途切れた。
――
『っ!? 何、してる……!?』
俺だって分からない。
振り返ったらリゼがおらず、彼女が下流の方で岩に引っ掛かっていた。それを見た瞬間身体が勝手に動いていたのだ。
服も脱いでいなかったので、体に張り付いて動きにくい。それでもなんとか、俺はリゼの身体をしっかりとつかむことが出来た。
「っ……」
何とか彼女が引っ掛かっていた岩に身を預け、彼女の安否を確認する。
脈拍はあり、呼吸もある。ただこの岩にぶつかって気を失っただけのようだ。
『どうする、つもり……?』
肩にくっついているスライム越しにヤガーが聞く。確かに、周囲にはこの岩以外で掴まれそうなものは無く、流れる水は確実に俺の体力を削っていく。
「……」
考えろ、岸まで無事に渡り切れる連鎖を。
『ニンゲン……?』
「――岩鎚、水弾、氷結、氷結っ!!」
川底の石を浮かび上がらせ、それを水で覆い、凍らせて足場とする。それらをさらに強力に凍り付かせ、水流に耐える橋を生成する。
「っ、これで、どうだっ!」
橋はしっかりと出来上がり、岸へ向かって伸びている。俺は何とかよじ登り、リゼと共に川岸への生還を果たした。
『……滅茶苦茶』
「良いだろ、連鎖魔法は何も攻撃にしか使えないわけじゃないんだ」
そうだ、俺は今まで威力のある連鎖ばかり考えていた。
だけど、それだけじゃ欲しいものも、守りたいものも、何も手に入らない、守れない。俺がやりたいのは戦いだけじゃないんだ。大事な人を守って、欲しいものは必ず手に入れる。そして、それを手放さない。
連鎖魔法はそのための力なんだ。きっと……
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