第19話 毒竜追跡中

 緊張で眠れないかと思ったが、意外なほどよく眠れた。頭はかなりスッキリしている。


 ヤガーから防毒の護符と毒消しを十個ほど貰った後、クラリスと合流して毒竜の追跡を開始する。


「土地そのものが腐ったような景色だな」


 人見知りがかなり薄れてきたのか、クラリスは俺に話しかけてきた。


「別のパーティに所属していたころに、討伐したことがあってね。その時も毒竜の通り道はこんな状況だった」


 周囲には朽ち果てたような枯れ木と、こんもりと積もった灰色の砂で満ちていた。


 毒竜はそれ自体が発する強力な毒素により、周囲の動植物を朽ちさせる。

 それらが死んだ後には、生命維持をしていた魔力が大気中に昇華されていく。毒竜はそれを摂取することで生きていた。


 つまり、ここにあるのは魔力の残りかすで、魔力の無い土地は再生が遅い。毒竜が通った後には雑草すらも残らず、緑の再生には十年単位の時間が必要だった。


 リゼは……連れてこなくて正解だったな。


 かなりゴネたけど「この依頼が済んだら思う存分かまってやる」という条件で、口を尖らせつつも了承してくれていた。


「騎士は抗状態異常スキルを持ってるけど、それは絶対じゃない。ちょっとでも気分が悪くなったら、エルフ製の毒消しがあるから言ってくれ」


「問題ない」


 そう言って、クラリスは彼女のスキルを開示する。


 かばうLv7

 大盾マスタリーLv6

 抗状態異常Lv9

 自然回復Lv4


「うん……これは、すごいな」


 抗状態異常スキルは、スキルLv*10%の確率で状態異常を無効化するスキルで、Lv7以降はレベルの低い魔物の攻撃や、食べ物に含まれる毒のほとんどを無効化する効果も含まれていた。


 つまり彼女は、状態異常になる確率がかなり低いのだ。


「とはいえ、毒竜の攻撃で絶対にならないってわけじゃないんだ。注意はしておいてくれ」

「承知した」


 ちょっと不機嫌そうな気配を感じて、俺は苦笑する。なんとなく彼女の感情を察することが出来るようになったようだ。


「……あの奴隷は、何処に」

「ん、リゼの事か?」


 しばらくして、クラリスはまた口を開いた。


 彼女なりに緊張しているのかもしれない。何か話をして緊張を和らげてあげたほうが良いかな? 俺はクラリスに今までの事を軽く話してあげることにした。


「リゼは留守番だよ、毒竜討伐は彼女には危険すぎるからね」

「なるほど」

「俺が一人で冒険するようになって初めて助けた子だからね、出来るだけ安全に暮らしてほしいんだ」


 あのイクス王国領から離れる時、彼女と出会わなかったらどうなっていただろう。


 死ぬ事は無かったはずだ。初期レベルでも大業魔を倒せるんだから、イクス王国=エルキ共和国間の道中で苦戦するはずもない。


 でも、きっと一人でエルキ共和国まで戻っていたら、孤独で心が歪んでいたかもしれない。シエラ達を見捨てていたかもしれない。


 そういう意味では、俺はリゼとの出会いに感謝している。


「パーティを組んでいた頃は、ここでこんなことをしているなんて思わなかったな」

「どんな奴と組んでいた」

「シエラ白金旅団って知ってる? 元はそこにいたんだ。リーダーとは冷却期間で、お互いに離れているけどね」


 未だにシエラがエルキ共和国へ向かったという情報は入っていない。もう以前の彼女に再会するなんてことはないのだろう。


 精神的に成長したシエラや、団結力の増したアベル達を考えると、俺の方が会いに行きたいと思うほどだ。


「シエラ、白金旅団……」


 クラリスはその言葉を噛みしめるように、ぽつりと呟いた。その声色に羨望の色があったのを、俺はしっかりと感じ取った。

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