第9話 三頭狼との戦い2
「グオオォォッ!!」
三頭狼の口から真っ赤な炎が放たれる。
「回復、岩鎚っ!」
ブレスが俺へと迫る前に、魔法によって隆起した地面がそれを防ぐ。
「水弾、氷結!」
隆起した地面の脇から身を乗り出して、凍結した水弾を発射する。しかしそれは命中こそしたが、そこまで大きなダメージとはならなかった。
連鎖で効果が変わる魔法はいくつかあるが、水弾と回復は特にさまざまな形に変化する。
水弾は水属性だけあって、氷、水、水蒸気と後に付く連鎖によって大きく形を変え、威力を増強する。
逆に回復は、攻撃目的ではないと宣言する目的なのか、その後に続く連鎖は防御と回復に寄って行く。岩鎚も本来なら相手につぶてを当てる攻撃だが、今は盾として作用していた。
「ガウッ、ガウッ、ガウッ!!!」
「っ、回復、風切っ!」
突風が起き、身体が宙に浮く。先程まで俺がいた場所に三つのあぎとが殺到し、土壁ごとズタズタに引き裂いた。
俺は少し離れた位置に降り立って、俺は再度右手を三頭狼へと向ける。
「岩鎚、風切、水弾っ」
つぶてを風で巻き上げ、水を含ませる。出来上がった竜巻は岩石と水で質量を持った暴力となって三頭狼を襲う。そう、これが――
「竜巻(トルネード)ッ!!」
「ガアアァァッ!!」
よし、効いてる! 俺はさらに畳みかけるように魔法を発動させる。
「水弾、水弾、氷結っ!」
一発で効果が薄いなら、水の量を増やそう。そんな単純な発想だが、効果は高いはずだ。
しかし、やはり効果が薄い。炎のブレスを吐く三頭狼相手には、なるべく水・氷属性で攻めていきたいが……
「ガルルルッ!!」
「回復、岩鎚、岩鎚っ!」
敵の突進を土壁の多重生成で凌ぎつつ考える。どうにかしてあいつにダメージを通さなければ。
……そういえば、竜巻は結構効いていたな。威力の問題か? それとも……
「水弾、風切っ」
風によって速度を上げた水弾が三頭狼にぶつかる。しかし相変わらずダメージはあまりないように見える。
「水弾、岩鎚っ」
ならこれだ! 俺は泥の塊となった水弾を三頭狼へぶつける。
「ガァッ!?」
ぶつかるまでに水は蒸発するが、泥と混ざっているおかげですべてを蒸発させることはできない。なら、これを軸に強化すれば……
「水弾、氷結、岩鎚、風切っ」
唱える順番が違えば、どの属性が強化されるか変化する。低い威力の水弾を氷結で威力上昇、岩鎚で三頭狼の防御を抜き、風切で竜巻を起こす。
「大竜巻(ドラゴンストリーム)ッ!」
辺りの地形ごと引きはがすような凄まじい竜巻と共に、水弾と岩鎚が三頭狼を襲う、巨大だったその姿は岩や倒木に押しつぶされ、見えなくなっていく。
「……――! ――ッ!!」
何か吠えているようだが竜巻が凄まじすぎて何も聞こえない。そして、全てが収まる頃には動かなくなった三頭狼が、瓦礫に押しつぶされていた。
――
「あ、リック様! お疲れです!」
「……信じられない、帰ってきた」
三頭狼の死骸から希少素材のみを剥ぎ取り、丁寧に埋葬してから落ちあう予定のポイントへ行くと、リゼとヤガーが出迎えてくれた。
「どうやったの……? ニン……貴方、魔力量もそこまで多くないし」
どうやら十把一絡げの人間から、個人として認識してくれるようになったらしい。俺はヤガーに自分の職業を説明してやる。
「連鎖術師……って言っても分かんないか、とにかく俺は魔法を――」
「連鎖術師……!?」
「うわっ!?」
職業の解説をしようと思っていたところに、ヤガーはつかみ掛かってくる。え、何? 俺なんかした!?
「冗談は……やめて、それはエルフしか知らない、禁忌の……世界を壊す……」
「ちょ、ちょっと待った! 何が何だか……そもそも連鎖術師って、何回も魔法を唱えてようやく一般的な職業と一緒くらいだろ?」
「……説明、してあげる」
そう言って、ヤガーはぽつぽつと語り始めた。
「連鎖術は……禁忌の魔法、連続で唱えるほどに際限なく威力が上がっていく……それを恐れたヤガーの祖先が封印した。エルフ以外は誰にも知られちゃいけない職業」
「え、いや、際限なくって言っても、魔力上限はあるだろ? 俺は結構低いし……そもそも回復属性とはいえ魔力上限まで全力で使い切っても、リゼ一人くらいしか助けられないんだぞ?」
「そのおかげで私生きてます!」
微妙に難しい会話なせいで、参加できないでいたリゼが元気に手を上げる。
「……多分、一回死んでる」
「うぇっ!!??」
リゼが驚いて声を上げる。俺にとってもその言葉は衝撃的だった。
「連鎖術師が……魔力上限まで回復を使ったら、スキルLvが低くても『回復属性Lv10:蘇生復活』以上の効果、になる」
「じゃ、じゃあ、私にとってリック様って……」
「命の恩人……以上の存在、もう無い物を再び作り直すようなもの……」
そんな力が……俺に?
すぐには信じられないが、暴風雨や大竜巻の威力を見ていると、あながちあり得ない話でもないような気もする。
「とにかく、連鎖術は……調子に乗って使わないで」
「あ、ああ……むやみに大連鎖はしないようにする」
こりゃあ、使って四連鎖までだな、五連鎖以降は何かヤバい気がする。
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