第7話 西の森の魔女

――西の森で暴れる魔物の討伐


 最近西の森で出現している大型の魔物を討伐してください。

 対象の情報が不足しており、詳しい姿は不明。

「巨大な姿」

「森の主かと思った」

「信じられないほど強い」

 という遭遇報告があるが、真偽は不明。詳細は現地で調べるように。



「……マジでか」


 少ない、情報があまりにも少ない。西の森に居る凶悪な魔物を討伐すればいい……ってことなんだろうけど、魔物なんて何種類いると思ってんだ。


「リック様、どうしました?」

「な、何でもない」


 いや、確かに銀等級以上の依頼は情報が錯綜し、正確な情報を書かなければいけない依頼書には、書かれる情報が少なくなってしまう。みたいなことはある。情報収集も含めての銀等級。みたいな依頼もあるにはあるのだ。


 しかし、森の中をどれだけ進んでも、そんな影は一切見えてこない。


「これは……ハズレの依頼か?」


 時々あるのが、うわさが独り歩きしたせいで、ものすごい魔物がいるような印象を与えてしまうって事だ。


 その結果、何もない場所に対してギルドの依頼が発令されてしまう事も有る。


「本当に何もないですね、平和そのものです。どうしましょう? 帰っちゃいます?」

「ん、うーん……もう少し調査して、それでも見つからなかったらそのまま報告しようか」



――



「……また、ニンゲン」


 話し合う二人の姿を、物陰から見つめる存在があった。


「追い返す……ここに来てはいけない……」


 それは、もぞもぞと身体を動かし、何かの魔法を発動させる。



――



「っ!?」


 帰ろうかと思った瞬間、森の奥から何者かがゆっくりと近づいてくるのが見えた。


「……」

「リ、リック様! きっとこいつですよ!」


 姿がはっきりとしてくると、巨大で苔むした身体を持つ土巨人(クレイゴーレム)だった。


「なんだ、土巨人か」


 土巨人は下級の魔物で、よほどのド素人でもない限りやられる事は無い。こんな魔物相手に金等級が与えられるとも思えないが……


「水弾、火球」

「――!!!!」


 水属性魔法を食らった土巨人が、煙を上げて爆散する。水弾によって水分を含んだ体表が、火属性魔法とシナジーを起こして水蒸気爆発を発生させたのだ。


 案の定、土巨人はその体を吹き飛ばされ、ぐずぐずに崩れていく。


「す、すごいです! リック様!」

「この間スキルの相乗効果上昇がLv3になったからな、威力も折り紙付きだ」


 もちろんこの魔法は、初級魔法二発分しか魔力を消費しない。威力は上級並なのに消費はあってないような物、ようやく連鎖術師らしい戦い方が分かってきた気がする。


「さて、これで……終わるわけないか」


 土巨人が周囲の茂みからボコボコと生えてくる。どうやら彼らは群生しているらしい。


「リゼ、離れるなよ」

「わ、分かりました!」


 俺は連鎖記録領域に「水弾>火球」を登録し、右手を土巨人たちへ向ける。


「くらえっ!」


 俺が右手に意識を集中させると、水弾が発射され、それが命中すると土巨人たちは爆ぜていく。


 どこに隠れていたのかというほど大量に沸いてくる土巨人を一体一体爆殺していくと、あるタイミングから彼らは俺を襲わなくなった。


「……?」


 諦めたのかと思いきや、彼らは自分の身体同士を合体させ、巨大な一個体として立ちはだかる。


「なるほど、これが討伐依頼のあった魔物か」


 巨大で、森の主と見紛う姿で、とんでもなく強い。まさしくそんな姿をした土巨人に、俺は右手を構えなおした。



――



「なんだあいつ、なんだあいつ、なんだあいつ」


 物陰からリックを見つめていた影は、狼狽えるように言葉を繰り返す。


 どんな魔法を使っているか分からないが、あの威力の魔法をあんなに連続して撃てば、すぐに魔力切れを起こしてしまうだろう。最大の魔力保有量を持つ大賢者でさえ、あんなに連発したらすでに気絶していてもおかしくない。


 そして、ディレイとクールタイムも感じさせない連射速度、本当に人間なのかすら疑わしいと影は思っていた。


 しかし、それほど連発していれば魔力も随分削っただろう。虎の子である超土巨人を召喚し、影はそれをぶつけることにしたのだ。



――



「リ、リリリリック様! さすがにこの大きさは……!」

「落ち着け、この大きさなら倒し甲斐がありそうだ」


 ガタガタと震えるリゼを強く抱き、俺は魔法を発動させる。


「水弾、風切、氷結……雷撃」


 水を発生させ、風で舞い上げ、凍り付かせて雲を成し、雷を与えて雷雲を成す! 名付けて――


「暴風雨(テンペスト)ッ!!」


 連鎖威力向上、相乗効果上昇がフルに乗った連鎖魔法は、土巨人の頭上から極大の雷撃を落とす。


「!!!! ――!!! ――!!!!」


 それは一発で終わるはずもなく、俺の聴覚も痺れそうなほどすさまじい回数で敵を穿つ。その度に巨大な敵は形を削られ、どんどん小さくなっていき、暴風雨が切れるころには、跡形も残っていなかった。


「……」


 さすがにリゼもこの威力には驚いたようで、絶句している。

 ……実はというと俺も想像以上に威力が出て、ちょっと引いた。


「さ、さあ、依頼は終わった! 帰ろうか!」


 あんまり連鎖を続けすぎると、制御不可能な威力になりそうなので、今後は連鎖回数を控えるべきかもしれないな。


「……きゅう」

「ん?」


 帰ろうと思い、振り返ったところで、人が倒れているのを見つけた。


「リック様?」

「人が倒れてる。土巨人に捕まってたのかな?」


 いかにも魔女ですって格好の少女で、年は大体リゼと同じかちょっと上くらいか。俺は不思議に思いつつも、彼女を介抱することにした。

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