第32話
「おや、ハナエ。病院からここまで散歩に来たのかい?」
冗談の台詞とは裏腹に彼の姿は雨に降られたあとのように汗に濡れた姿。
「ムラベ……。アナタには逢いたくはありませんでした」
彼の姿を見たためにゆらりゆらり揺れ動く覚悟を折れないよう、彼女は言の葉を切ろうとした。
「ワタクシは用ありますのでこれで」
「彼が来たときから君が来ているのが解ったよ。やっぱり幼馴染三人考えるのは同じ。ここはボクたちの志が決まった場所だからね」
「…………」
「色々迷ったらここを思い出した。ハナエもそうでしょ?」
「ワタクシは違います。二人とは志は違います」
「そうかな? ハナエはボクとワタリとは違って大人と折り合いを付けるのが上手だったからね。何度も救われたよ」
「違いますわ。ワタクシは」
「そんなところにいないでこっちにおいでよ」
「ワタクシはもう何もありませんの!」
「ハナエ」
「ムラベ。ワタクシの一族はもう英雄の血族ではないのです。ワタクシも片腕では何も作れないのです。合理的に考えなければなりません。ムラベ、これからアナタは多くの味方を作るのです。妻を娶り、子をもうけ。それからでも遅くはありません。きちんと気持ちを言葉にしないと鈍感な一人の女は気づきませんよ」
「うん、その通りだ。遅くなってごめん。ハナエがボクは君が好きだよ」
「え?」
「あ、それでプレゼントがあって」
そんな彼女の声なんて聞こえてないらしくポーチから完成したらしい義手を取り出した。
「君のために義手を作ったんだ」
「ワタクシのため?」
「うん。とりあえず、その物騒な爆弾から手を離して」
「えっ! 爆弾!」
「あっ……」
ナガトの声に驚いたのか、それともムラベの言葉に従っただけなのか、そこでぽろり、ハナエの手に持たれていたそれは体温から離れた。
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