第31話
「ワタリ理想を叶えるには理想だけではどうしようもありません。小さいころからアナタ方は絵空事を口にしては思いを馳せているだけだった。ホントの英雄を目指してばかり、だから、辛い経験を多くしたでしょう。それなのに未だに追いかけて莫迦みたい」
「そうだな。ジブンとムラベはハナエのように上手く立ち回れない」
「ワタクシたちが生きているのはこの世界の理の中。ゆめゆめ忘れず。ムラベにもそうお教えください」
「自身の口で教えろ。ここにムラベはいるぞ」
「……いいえ。さあ、ナガトさん。ワタリのところへ。彼女と一緒にいれば安心です。ワタクシは自身を誇れませんが姉は誇れますわ」
「えっと……」
背中を押されてナガトは後ろ髪を引かれつつこっちへ歩いてくる。ナガトが自身の傍にたどりつくとワタリは彼女の名前を呼んだ。
「ハナエ」
一歩近づくと。
「それ以上近づかないで」
ハナエはワタリの接近を制した。
「いいですかワタリ。アナタなら妹のワタクシがこれから何をするか気づいているでしょう? これからこのダンジョンへ入ります。それからアナタは必ず一族の遺産を受け取るのです。それがワタクシがアナタたちにしてあげられる最期の協力。それをどうするかは二人が決めること」
そう云い切ると羽織っていたローブを取った。そこに立っているのは左腕をなくした女性。そして空いた片手に丸みを帯びた銀色の手榴弾を握っていた
「やめろ」
「最期に役に立ちたい。綺麗事もいらない。優しさもいらない。言葉もいらない。ワタリ、後始末はお願いね。ワタクシは――あ――どうして」
彼女の表情が歪んだ。視線の先には。
「やあ。今日は君を探しに行ってたのに、行き違いになっていたらしい」
闇夜に染まりかけた木々からひょっこり顔を出して近づいてくるのは、疲れきった顔を隠しきれないムラベだった。
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