第4前日章
第30話
少しだけ陽が傾いていた。縄を伝ってナガトを先にダンジョンから出して、ワタリ俺の順番に外へ出たそこにいたのはナガトの肩に手を添えたローブの女性だった。
「お久しぶりですが、まさか、ホントにここにいらっしゃるとは思っていませんでした。姉妹の考えは似るものなのですね。お元気でしたかワタリ」
突っ立っている俺を見て、ワタリは得心がいった顔をした。
「やはり彼を利用していたのはそなただったかハナエ。はったりを利かしたか?」
え? はったり?
「いいえ。嘘は吐いていません。数ある過去の出来事を一つに纏めて話したのです」
「はったりみたいなものだろ」
「これはワタクシの処世術ですわ。それにきちんと対価はお支払いしています」
「ならいい。病院でリハビリをしていたはずだ」
「そうですね。病院からは追い出されてしまいました。ワタクシたちにはその権利はもうないそうです」
「なんだと?」
「ワタリ。もう、帰る場所はありませんよ。ワタクシたちの一族は価値はなくなったのです。欲にかられた結果全滅したのは知っているでしょ。生き残ったワタクシはそれに値せず、国家はワタクシたちの爵位を剥奪しました」
「そうか」
「驚かれませんか?」
「覚悟はしていた。いままでやってきた所業が返ってきたのだ」
「そうかもしれませんね。それにワタリには意味のない話でしたわ。ナガトさんに教えていただきましたよ。まだ、絵空事を信じているようですね?」
「…………」
ワタリは考えを逡巡させるよう黙ったままだった。
「黙りですか。二人で逃げる前にベッドに座っているワタクシに伝えて下さればよかったのに。ワタクシが邪魔であるとそう一言下さればここまで追ってはきませんでした」
「そんなことは」
「取り柄を失ったワタクシは何も護れませんの」
「…………」
「もう、こんな生きているだけのワタクシでは役に立ってはあげられませんの」
そう云ったローブの女性の表情は自信に満ち溢れた笑みをしたまま、下をみた。
「ナガトさん、申し訳ございません。もう少々お付き合い下さいね。何もお礼はできませんがお許し下さい」
「…………」
ナガトは黙ったまま頷いた。
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