第29話
「そうか。期待を折ってくれて助かる。ナガトもうここへは来ないほうがいい。希望はもうない。ナガト?」
「ここのどこかにあるかもしれないよ」
「いや」
「お兄ちゃんが見落としているだけでまだ判らないよ。まだ、可能性はあるかも」
「ナガト、心配しなくていい。ジブンたちがどうにかする」
「…………」
「ナガト?」
「村、なくなるの?」
「そうだ」
「ワタシたち子供だけを連れて、みんなは置いていくの?」
「どうして、それを!」
「それぐらい知ってる! 子供だからって知らないわけじゃないんだ。みんなワタシたち子供だけを護ろうとしてくれてるのぐらい知ってる」
「…………」
大人たちから子供に向けられた視線の意味を理解した。
「村がなくなるわけじゃない。いつか、きっと、戻れる日が――」
「村のみんながいるから村なの。村は場所じゃないの」
「……ああ」
弱々しくなるワタリを観て、ナガトは感情的になっていたのを悟った。
「ああ……。ワタリ、ごめん。ワタリを責めるのは筋違いだよね。ワタリたちは助けてくれようとしてるのは解ってる。ごめん。ワタリ。何を聴いていたんだろう。ワタシたち子供だけを連れて行くのは、ムラベだって辛いんだよね。受け入れなきゃいけないんだ。世の中は綺麗事だけじゃ、願うだけじゃ駄目なんだって。ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい。我が儘云って、ごめんね」
「いや、謝らないでくれナガト。君に謝れてしまったら、ジブンたちは……」
「ワタリぃ」
抱きしめられている子供が泣いている。
一人の女性の胸から聞こえる泣き声はくぐごもっていて、彼女の泣き声のように思えた。
「村へ帰ろう」
「うん」
ワタリから離れたナガト。落ちていた鞄を手渡そうと俺は近づいた。
「あっ。鞄をとってくれて、ありがとう。お兄ちゃん」
こんなときに笑ってお礼を言える子供は剣師のように凛々しかった。
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