第18話

「ワタリはナガトの家にお世話になってる。つまり、ボクは一人だから君がここに泊まっても問題ないよ」

 凄く問題視していた剣士がいましたがいいんですか?


 ムラベの温情は野宿を覚悟していた身としてはありがたい配慮だった。


 先程までナガトに連れられて村を散策していたのにも関わらず今晩の宿について念頭にもなかったのは失態だった。日が暮れてきてナガトが家に帰ると口にしたとき、野宿という単語を思い出す。宿泊施設はないのは確認済み。ナガトを自宅へ送り届けると、恐しい形相の剣士ワタリが立っていた。まずは挨拶として殴られる。そんな剣士の形相など幼い子供には無力らしく「お兄ちゃんはムラベのとこね」と一言告げてワタリの手を引いて家の中へ入ってしまった。扉が閉まる隙間からこっちを見ていた視線がやばかったのだけれど、とりあえず彼の元へ逃げ込んでいまに至った。


 外はすっかり暮れて闇夜となっている。火が点けられた蝋燭が揺れると二つの人影も大きく揺れた。


「夜に一人じゃないのはいいね。作業はできないからさ。会話をしてくれる相手がいるのはいいものだ」


 そう云いつつ、ムラベは二つのコップをテーブル置くと一つを口に運んだ。これから喋る前の準備をしているといわんばかりだ。俺もつられて口にするとほんのりした温かみが気分を柔らかくさせる。味はこの前飲んだ紅茶と比べてはいけないけれど、そんなに美味しさはなくとも体を十分潤してくれた。


「君、やっぱり顔に出やすいね。いま、この飲み物不味いと思ったでしょ?」

 え、なんですって?

「気を使わなくて大丈夫だよ。だって不味いもの」


 飲み物を出した側が不味いというなら遠まわしに表現しなくてもよかった。


「正直に云っていいと思うよ」

 そうですよね。

「ワタリが作ったやつだけど」

 え?

「ボクは言わなければいいけど。君は顔に出さないように気をつけて」

 切り刻まれませんよね?

「でもね。彼女は内面を表に出さない性格だったんだけど」


 そこまで話すと微笑みながら彼は不味いと云いつつ飲み物を再び口にした。

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