第17話

 驚いた顔から笑みに戻り「それよりも」と肩から下げている鞄を手に取りながら、人をからかう笑みでナガトは云う。


「そんな真剣な顔をしてなになに、お兄ちゃん、ワタシの鞄が気になるの? いいでしょ? これお母さんが造ってくれたの。仕方ないなぁ。お兄ちゃんに見せてあげようかな」

 そんな顔してません。


 ナガトは肩から紐を外すと鞄を自分に渡してきた。無警戒にもほどがある行動だ。会ったばかりの他人の危険性を知らないらしい。まあ、持ってしまった自分がとやかく言える立場ではないけれど。


「ここに内ポケットがあるの」


 鞄の内側にある内ポケットを指して云う。そこには整わない文字が書かれていた。


「お母さんがよく云ってた。ここにお願い事を紙に書いて入れておいたら願いが叶うって」

 そうですか。

「お兄ちゃん、文字かける?」

 失礼。

「そもそも、読める?」

 もっと、失礼。

「ワタシ、書けるんだよ」


 そう云って、ナガトは地面にしゃがんで文字を書き始めた。


「ナ、ガ、ト。これがワタシの名前。お兄ちゃんは自分の名前は書けるの? 文字も読めないでしょ?」

 俺、この子に何か悪いことでもしたっけ?


 …………。

 そうか。

 したんだった。


 周囲を観ると、自分たちのやり取りをみて微笑んでいる人々が大勢いる。いや、村人の皆さん笑ってないで、この子には教育がいるんじゃにですかね、そう、思う俺だった。

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