第15話

気づいていないフリをするのもどうかと思い、近づいてみると直球に考えを述べてきた。


「お兄ちゃん、また、迷ったの?」

 子供は正直だなぁ。

「音痴?」

 歌は唄えます。

「そっか。音痴なんだ」

 何故そうなる?

「体は動かさないとね」

 運動音痴の話だったですか?

「お兄ちゃん。これ」


 会話はそうそうに切り上げられ、ナガトが向けてきた掌には雑草の中から採取さたらしき何本もの茎があった。緑色に根元がほんのり紅い。雑草と見間違えてしまう茎。


「紅いのが目印ね。これ覚えておくといいよ。食べ物じゃなくて水分を補給する茎なんだ。これをこうして外側の皮を剥ぐと茎に含まれている水が染みてくるの」


 そう説明しつつ茎を口の中に入れて水分を補給しているナガトは残りの数十本ある茎を鞄にしまった。


「遠出するときとか役に立つよ。採ったら長くは持たないけど」


 注釈をつけてにっこりと微笑んだ。


「お兄ちゃんの場合は遠出じゃなくてただの迷子だけど」

 だから、迷子にしないで。

「それで、ワタシに何か用?」

 用はないです。

「ああ、そっか。お兄ちゃん、ワタシにお礼をしにきたの?」

 何云ってるんですか?

「いいの、いいの。そんなことをしなくても。ワタシはお礼をされるために迷子のお兄ちゃんを助けたわけじゃないから。うーん。でも、どうしてもお礼をしたいならされてあげてもいいよ」

 厚かましい子供だった。

「まっ、冗談なんだけどね」

 …………。


 イニシアチブを握られるのは慣れている。慣れてしまってはいけないのだけれど。自分たちのやり取りをみて村人が微笑んでいるのを喜ぶべきなのかどうなのか。嘲笑う意味ではなく彼らの表情に愛想笑いが見られなかった。

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