第12話

 ひいぃぃ!


 腕、うで。白色の腕。腐って穴の開いた腕。なんでぇ、こんなの持っているんですぅ? 見覚えのある腕なんですが? こんなものをひょいと出すなんてサイコパスな方ですか? 帰っていいいですか?


 俺の驚きを見ながら彼はにやにや自慢げに笑っているのは、やっぱり異常だと思うしかない。


「そんなに驚いて、ボクの技量に感嘆してくれているのかい? それとも義手は見たことなかったかい?」

 えっ? 義手?


 云われて恐る恐るよく観察してみれば、それは精巧な腕だった。腐って空いていると思っていた穴の中は腕を機能させる仕掛けがされているようだ。


「ほら、この内部に必要なんだよ。ボクは工作士。魔術じゃ人は癒せないから、彼女のために作ってる」


 チラリと女性の片手を眺めても、素人目では義手なのか判別できない。


「ちなみに彼女が身につけている。武器、鎧もボクのお手製さ。君も一つどうだいと思ったけど、戦闘はしないタイプのようだね。いいや、申し訳ない。詳しい詮索は止めておこう。君もボクらの詮索は止めてくれているようだしね」


 彼が動くと胸に付いた階級章が揺れた。英雄の血族には階級章が与えられると聞いた覚えがある。大佐の地位を与えられ緊急事態の場合は軍に協力しなければならないとかなんとか。


「さてさて。義手の話に戻ろう。義手に必要な材料がこの近くのダンジョンでは昔は多く取れていたらいんだ。でも、いまは大方取り尽くされてしまったようだ。運良くボクの欲しかった分は見つけられたんだけどね。そこには人に売り買いして商売を成り立たせる量はないみたいだ。幾分か前まで村はそれで生計を立てていたみだいだ、あ、ナガトそろそろ家に帰りなさい。眠いんだろう?」

「うーん。うん」


 ナガトはベッドで転寝をしていたらしい。瞼を擦りながら両足を地面に付けるととぼとぼと外へ出る扉へ向かう。


「また、明日来る」

「そうかい。それじゃ、明日」

「ワタリ。あとでね」

「ああ」


 ぱたりと扉は閉められ室内は三人となった。

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