第2前日章

第9話

 クローバの村の家屋は全て木造だった。一般的に村は交通機関が不便で人の往来が多くないところから物流が活発ではない。よって家屋等を建てるのに近場の木々を使用するため木造なのがほとんど、石造り建物があっても倉庫ぐらいだった。


 人目で見渡せるぐらいの広さの部落の住民は五十人程度だろうか。不可侵領域を背にして存在する村はか細い杭と薄板によって村の内と外の境界線が引かれていた。


 さて、どうしようか。


 村から離れた場所で馬車を降りたあと、村にたどり着いたという格好。傍からみれば旅人が迷い込んだ形に見えるかもしれない。


 部落に限った話ではないけれど、どこでも部外者は受け入れ難いものだ。ましてや、いざこざを抱えている人ならば尚更受け入れてもらえないだろう。


 けれども、情報はここで得るしかない。どうにかこうにか情報を拾って彼らが寝床としている場所を探らなければ何も進行はしない。この状況から標的と二人っ切りになるのはどれだけの時間を有するのだろう。


 と、そんな考えを巡らせているところで声をかけられた。


「お兄ちゃん、迷子?」

 え?


 声のほうへ見下ろせば赤茶色をした髪の子供がずた袋を被ったような衣類で鞄を下げてこっちを見ている。頬は薄汚れていて清潔の概念が元からないといった風の子供だった。


「迷子?」

 いいえ、違います。

「あ、迷子なんだ」


 困っていた顔がどうやら迷子だと判断されてしまったらしい。


「こっち、こっち。助けてあげる」


 有無を言わせず手を掴まれ俺は引っ張られていく。引っ張られていく最中、住人の数名とすれ違った。彼らも子供と同じような衣類を身につけていて邪険な扱いの表情をされるのかと思っていたのだけれど、こっちを見て温かく微笑んでいるのが不思議だった。

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