第3話

 フードを取った女性は店主が云っていた通り緑髪で若く美しかった。丁寧口調で出で立ちに気品がある。緑のローブを纏っていて体型は判らないけれど、顔立ちから確認しなくても容易に想像ができそうだ。


 酒場とは打って変わった喫茶店。上流階級の人々の専用となっている憩いの場は艶のあるテーブルに赤生地の椅子だった。座り心地がとてもいい。今後利用する機会はないと思える品々に囲まれながら彼女と向かい合って鎮座していた。


 さっきのいざこざというか一方的なやり取りに対して彼女にお礼を言うべきなのだろう。けれど、俺が一礼するのを彼女は止めた。


「名乗りはしないでおきましょう。そのほうが双方にとって都合がよいですわ」


 危険度が上がっていく台詞回しだった。続けて云う。


「率直に言います。ワタクシに協力していただけないでしょうか? さきほどの終始一貫拝見させていただきました。それで貴方にならワタクシに協力できる力があると確信しました」


 ふと、さきほどの店主を思い出した。店主は彼女が英雄の血族だと察して、詐欺の現行犯で死刑とされると思ったのだろう。屈強な店主が途中から彼女に従っていた理由はそんなところだと思う。


 上流階級の施設を利用できるところからその推理は正解だ。彼女は英雄の血族だ。死刑にするほどの魔術を持っているのかもしれない。肩書きが自分自身と相手の力量を測るのに一番賢い防衛手段だ。


 となると、王都の居住区から辺境まで来ている理由が協力の内容だとも察せる。


 英雄は国から貢献を認められた人に与えられる爵位。爵位はその英雄の血族も含まれる。解りやすいのはレベルの高さ。魔物を多く討伐した者が英雄とされるのが大半だ。世界を平和へと近づける人たちはどんな活動をしてるのか、興味があって協力できる経験をチャンスだと思わない俺はさっさと逃げようと思う。


 これは関わるべき案件じゃない。話だけ聞いて逃げるというシナリオで行こう。毎度同じ選択しかしていないけれど。

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