第2話

 店主は眉間に皺を寄せた。


「おうおう、なんだ。いちゃもんをつけるのかよ、ねぇちゃん」

「いちゃもんではなく、正当な言葉ですわ」

「ワシとあんちゃんで交渉は成立してんだ。余計な奴がしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」

「まあ、いいでしょう。アナタのような者が生きていようが死んでいようが誰にも迷惑はかからない」

 彼女が動く素振りを見せると、店主は急に青ざめた顔をした。


「ああああ、待てまて待ってくれ! ねぇちゃん。あんた、まさか?」


 店主は生気を搾り取られたみたく尋ねる。狼が子犬になるような可愛らしい変貌ぶりだった。


「まさか? そうだったらなんだというのです?」

「あ、いや。あまりにも若くて美しいんでそうとは思わなかったんでさ」

「そうですか? さあ、アナタの全てを地べたと同化させて差し上げましょう」

「か、勘弁してくれ。これで、これでなんとか」


 店主は鞄から銀紙幣を一枚取り出すと膝をついてその女性へと掲げた。手馴れている女性は困ったふうにため息を吐く。


「ワタクシにではないでしょう。正当な報酬を彼へ支払いなさい。それがアナタの命の価値ですわ」


 拒否しようとした俺に店主は願いながら紙に包んだ紙幣を渡してきた。その金額は物品の何倍もの価格で数ヶ月の食費を余裕で賄える一枚だった。受け取るのは彼女なのではないだろうか、いや、元々は報酬だったから受け取ってもいいのかな、いや、どうなの? 迷う。受け取らなかったら店主は命を落とすのだろうか。どうするべきだ? 逃げようかな。


 店主から銀紙幣を受け取ったまま逡巡し佇立している俺に向けてローブの女性は云った。


「受け取って差し上げて。アナタを騙さそうとした対価も入っていますのよ。あまり納得していないご様子。では、一杯お茶を頂けないかしら? これも何か縁。少しお話でもしようではありませんか」

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