悪運

道茂 あき

第1前日章

第1話

 魔物が蔓延る地上セプテムで人々は生存するため魔術と技能を洗練させていた。皇帝は平和を脅かす魔物を多く討伐した者を英雄と呼び爵位を与え名誉、名声を彼らのモノとして富を保証していたけれど、治安が維持されていたのは王都セプテムのみで辺境の地の人々はダンジョンを住処とする魔物に怖れる生活を続けている。



「こりゃ、状態がわりぃや。報酬はこれぐらいだな」


 屈強な筋骨隆々の店主は三本指を立てて報酬を提示した。自分は物の鑑定眼などはないけれど、同じ物を売ってきた実績はあったから、その対価が似合っていないのは理解できた。理解できていたとしても了承した。


 物の価値よりその価格で自分がいま必要な食料を手に入れられる金額に上回っているのが重要だったからだ。それにここは闇市場。正当な報酬を得られるほうが異常なのだ。


 闇市場といっても暗澹な雰囲気はない。露店に並べられている品々が全て盗品などではなく街などにも売られている商品が大半。その商品らとは別に売買や契約、斡旋などが行われているというだけだ。けれども、口約束で今回のような契約不履行は日常茶飯事。真っ当な報酬を得るには冒険者ギルドで斡旋してもらわなければならない。それができないのなら受け入れなければならないのが常識だった。


 今回ダンジョンで手に入れた黒鉱石はさほど難しいところにあったわけではなかったし、また必要になったら取りにいけばいいだろう。まあ、誰かに取られてしまっていたらそれは仕方がない。


「銀硬貨三枚。あんちゃん、どうするよ?」


 人混みの喧騒な中でも店主の図太い声はきちんと聞こえている。俺は二つ返事で。


「あらあら、見え透いた嘘を見て見ぬふりをするほど、ワタクシは落ちぶれていなくてよ」

 え?


 声をしたほうに振り向いた。緑のローブを身に纏った女性が立っている。フードを被っていて顔ははっきりとしないが声色から女性と思えた。

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