第7話 魔物退治
「条件?」
私と青野君は目を丸くした。当のお母様は悠然と私たちを見やる。
「我が国、ミール国の北に、広大な森があるでしょう? その森に出るという魔物を退治したら、エメル魔導師との婚約を認めましょう。そして、それを成人の儀式の課題とします」
私はお母様のお言葉を反芻した。魔物退治……まものたいじ!
「え? え? マリアよ、成人の儀式は王都を回って、感じたこととこれからの抱負を書いてまとめ、王の間で読みあげるというのが最近の通例で……」
国王であるお父様はそんなの聞いてないよ、という顔をしていらっしゃる。きっと、本当に事前に何も聞いていなかったのだろう。この提案は、お母様の独断なんだろうか?
私はおずおずと、お母様に聞いた。
「あのう、その魔物を、私が戦って倒すということでしょうか ?」
「そうよ。森に魔物が出るせいで、周辺の村々が被害を被っているらしいの。国としては放っておけないのだけれど、なかなかそんな場所にさく人員がなくてね」
お母様はしれっと答える。
そんな。
魔物退治だなんて。
魔物というのは、野生動物が魔法力を何らかの原因で取り込んで変化したものだと習ったけど、魔法を使えない人間には太刀打ちできないとも習った。
私は魔法をいっさい使えない。八人姉妹の中で魔法力は一番下だ。そんな私が、魔物退治なんて、できるの?
ううん、できるできないんじゃないんだ。やるんだ。青野君との結婚のために。
「やっぱり無理かしらね、ユノレアには」
「お母様、私やります。北の森に向かいます」
心なしか、お母様は少し微笑んだ気がした。そして、私の言葉を聞くと、こう付け加えた。
「この課題には、エメル魔導師も同行してもらいます」
え?
「二人で力を合わせて、森の魔物を退治するのです。そうしたら、二人の婚約を認めましょう」
お母様が私と青野君を見つめて、厳しい口調で言った。お父様は未だに話についていけない感じだ。
「……それは、本当ですか。メガロスの王子の希望を蹴ってしまって、よいのですか」
青野君は少し戸惑った様子だった。
するとお母様は不敵な笑みを浮かべ、恐ろしいことをさらりと言った。
「ずいぶん自信がおありのようだけど、エメル魔導師、報告によると北の魔物はかなり手ごわいのよ? それでこそ、ミールの優秀な魔導師が束になっても敵わないくらい」
青野君が目を見開く。
「だから国としてもどうする事も出来なかったと?」
「そう。こちらとしてもうちに仕えている魔導師をそう何人も失うわけにはいかないし、ここは希代の天才魔導師と名高い貴方になんとかしてもらおうと思ってね」
「お、お母様、エメル魔導師が正規の魔導師じゃないからって、ひどい」
私は一転して涙声になっていた。
青野君は三か月前私が両親に無理を言って、ミール国直属の魔導師にしてもらったのだ。両親というか、主に私に甘いお父様に泣きついて。……コネ採用といえなくもないかも。
「ひどくなんてありません。これは二人の婚約のための試練でもあるのですから。王子の求婚を断る以上、それ相応の覚悟をしてもらわないと」
「マ、マリアよ、少し可哀想なのでは?」
「貴方は黙ってて頂戴」
ぴしゃりと言われるお父様。しゅんとしている。国王なのに。一番偉いのに。
「で、どうするの? 北の森に行くの? 行かないの?」
完全にこの場を仕切っているお母様が詰問する。私より、青野君に鋭いまなざしを向けている。
青野君は目を伏せて考え込んでいる。その表情は読み取れない。
青野君……。
私、青野君が危険な目に遭うのは嫌だ。だけど、だけど……。
「王妃陛下」
視線をお母様に向けた青野君はゆっくりと言った。
「少し、考えさせて下さい」
「わかったわ。近いうちに答えを頂戴ね」
「はい」
その場はお開きとなった。
青野君に促されるまで、私はぼんやりと立ったままだった。
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