第3話 俺がこんなことになったわけ

 一体どうして、こんなことになったんだ!!

 姿地団太を踏んだ。

 

 高一の夏休み。同じクラスの川村結乃との、初めてのちゃんとしたデート。俺、青野白夜は表面上いつも通り、ミステリアスなクールキャラを装っていた。

 けど、内心は狂喜乱舞状態で、今日俺は大好きな結乃とデートするぜー!! って大声で叫んで町中を回りたいくらいだった。

 結乃が好きだって言ってた小説に出てくる、キザな王子のセリフを必死で覚えた。結乃はこういう男が好みなんだと思ったから。

 ネットで調べたデートの心得……男は車道側を歩く、彼女に歩調を合わせる、自分は聞き役に回るなどの気遣いにも苦労したが、なんとかクリアした。

 イルカショーで水しぶきから結乃を守ったときは、いやこれ結乃が水しぶきを浴びれば結乃のブラウスが透けたんじゃね? という邪念を抱いたが、クールキャラ維持のためにすぐ頭から追い出した。


 食事したあともデートで奢らない男はクズってネットに書いてあったのを思い出し、カッコつけて奢るよとか言っちゃったけど、本当はスマホアプリの課金で金があんまなくて足りるかどうか焦ってた。結乃が悪いから半分出すって言ってくれたときは天の助け、正直助かったー。いや、だけどちょっと待て、初デートでこいつ金持ってねー使えねーとか結乃に呆れられないか? いやいや結乃に限ってそんなこと思うわけない、結乃はそんな図々しくないぜ、いやいやいや、言わないだけで内心ケチだと思ってたりして。やばい好感度下がった? どっかで挽回しねーとやばいんじゃね? けどもう帰るだけだし、どうすんだよ……。


 ああ俺って学校では無口なミステリアスキャラになってるけど、心の中ではいつもこんなべらべらすげーいそがしい。別に俺無口じゃないし、家でも家族相手にはメチャクチャしゃべる。内弁慶って言うんだよな、こういうの。

 結乃が俺の本当の性格を知ったらどう思うかな……。


 って、おい! そんな俺の脳内劇はどうでもいいんだ!


 そんなことより、そのあと、デートの帰り道……そう、灯台に結乃と上ったんだ。死んだ親父から灯台のジンクスは聞いていた。

 もしやこれは結乃とキ、キキキキキ、の、チャンス?

 よーし、クズ挽回だー!

 夜空に浮かぶ月を背景に、邪な考えを胸に、いざ、と思った。

 俺の記憶はなぜかそこで途切れている。

 次気づいたとき、俺は知らない世界の子供になってた。


 俺はあのあと死んで、どうやら異世界転生ってやつをしたらしい。ラノベの展開そっくりだ。実際に自分がするとは夢にも思ってなかったけど。


 そして、これが一番大事なことだが、俺は転生したときは人間だったんだ! れっきとした! 

 ミール国の山奥にある小さな村に生まれた俺は、物心ついたときには父親と二人暮らしだった。

 母親は俺を生んですぐに亡くなり、親父は旅芸人として生計を立てていたんだ。

 

 いつものように俺は親父に連れられ王都へ出向き、広場でドジョウすくいとひょっとこ踊りと腹芸を足して三で割ったような芸をやらされた。それで飯を食っていたんだから文句は言えないが、初めのころは人見知りで内弁慶の俺にはきつかった。次第に度胸がついて、俺はこっちの世界で人見知りでも内弁慶でもなくなったんだけど。

 いつものように踊っていると、観衆の中に、なんと結乃がいた。

 結乃が俺と同じように死んで転生してるなんて、まさか思っていなかったから、俺は驚きのあまりひっくり返りそうになった。

 少し経つと結乃は女の人に連れられて行ってしまった。

 が、間違いなく結乃だったと俺は確信した。容姿は違えど、おっとりした感じや、人にぶつかって詫びる姿が結乃そのものだった。けど、結乃が俺と同じように死んでいたとはやっぱり信じたくなかった。


 だから俺はあの子が本当に結乃かどうか確かめるため、王都に行くことを決心した。

 親父はただ踊っているだけだと思っていた息子の、真摯な眼差しに心を打たれたらしく、いくばくかの金をくれて快く送り出してくれた。


 俺は王都に着くなり方々で聞き込みした。

 そして「アオノクン」を探している、ちょっと抜けてて、お人好しな王女がいる、という情報を得る。

 間違いなく結乃だ、と思い、なんとか王女に会えないかと、王宮の周りをうろちょろしてたら、


 あの、エメルの野郎に会っちまったんだ。

 


「どうしたの? シロ、フード食べないの?」

 結乃が猫の姿の俺を見つめ、首を傾げる。


 俺の話を聞くなりエメルは俺に魔法をかけて、王宮の塀を歩いていた白猫と、一体化させてしまった。

 まさかその白猫が結乃の愛猫だったとは、俺もエメルもまったくの予想外だった。

 それ以降、エメルは「これで楽して王族入りできる、第八王女の婿だから気楽そうだし、ちょうどいい」とかなんとかのたまいやがって「青野白夜の生まれ変わり」になりすまし、挙句の果てには今日結乃の婚約者になるという。

 なんという、由々しき事態。

「シロ、具合悪いの?」

 結乃が大きな瞳で俺の顔を覗き込む。ああ、可愛いな。

「シロ、結乃が心配してる、ちゃんと食べなきゃダメだろう?」

 エメルが俺(猫)の頭を押さえて、フードに突っ込む。結乃には見えない角度で俺ににやりと笑う。

(猫はすっこんでろ)

 こ、このやろう……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る