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「ようこそいらっしゃいました。ロイ王子殿下」
お城に入るや否や、ざっとならんだ執事達、そしてメイド達がお迎えしてくれていた。
長いテーブルには輝くような料理が豪華に並んでいる。美味しそうな香りが漂い、空腹が鳴らないように必死に抑える。
椅子を引かれ、おずおずと座る。徐に首にナプキンが巻かれ、緊張が高まる。横にいるチェリスは楽しそうだ。
全員が椅子に着くと食への祈りが始まり、厳かな食事会が始まる。定期的に経験しているが、未だに手が震えてしまう。僕は一人で食べる方が好きだ。
チェリスの食べ方は普段の破天荒な様子とは変わり、やはりお姫様らしく気品だ。王族は無駄な音を出さないように気をつけなければならない。睦まじく、そっとスープを口に運ぶ。美味しい。
お皿は次々と空になり、厨房からは洗う音が聞こえる。シェフ達は忙しそうだ。
最後にデザートが運ばれてきた時、チェリスが僕に行った。
「ロイ様、この後はどうなさいます?」
「そうだな…少しお城の中を見たいな」
「それでしたら、わたくしが案内して差し上げますわ」
その後、チェリスが色々話しかけてきたけど、僕はデザートの美味しさに心奪われていた。終始上の空で食事会は終わり、僕は城の中を見学することになった。
幼い頃から遊びに来ているけれど、部屋が多過ぎて何がどこにあるのか分からない。
まだ行けてない場所もあるし、それに気になるところもある。
チェリスは僕より物覚えがいいのか、軽やかにお城の中を駆け回っている。僕だったらすぐに迷子になるだろう。自分のお城ですら、迷いそうで不安なのに。そんな様子を見ながら、ふと前を見ると「no entry」と書かれた扉が目に入る。人目のない、廊下の一番奥にある扉。もちろん入りはしないが、その先はどうなっているのか、何故か気になっていた。以前もチェリスに扉のことを聞こうとしたが、華麗にスルーされた記憶がある。
「ロイ様!こっちですわ!」
「あ、うん…」
やはり今回も気のせいだろうか、チェリスがあの扉を避けているように思えた。その行動が余計に興味を向ける。考えないようにしなければいけないのに、僕の頭には扉のことでいっぱいになった。
一人のメイドが僕達の横を通り過ぎる。彼女は小さなパンと、小瓶らしきものを持っている。その表情は神妙な顔付きで、どこか違和感を覚えた。
「…?」
そのメイドはあの扉の方へと向かっている。胸騒ぎのようなものを感じる。なんだろう、あれは。
「ロイ様?どうかなさいました?」
「いや、何でもないよ」
僕は平然を装って、誤魔化すようにチェリスと手を握る。チェリスは嬉しそうに微笑み、気にした様子もなくしばらくお城の中を堪能した後は、庭にある美しい薔薇園へ足を運んだ。
僕はここの薔薇園が好きだ。芳しい香りに包まれて落ち着く。僕のいるタレイアも様々な花が生い茂る王国として語り継がれている。しかし、この王国の薔薇は格別だ。薔薇の国と言われるだけある。国の規模としては僕の国よりも小さいけれど、圧倒的な存在感で各国を魅了している。
ふと鐘が鳴る音が聞こえ、それと同時に遠くから僕のお迎えが来ているのが見えた。チェリスはどことなく寂しげな表情を浮かべていた。次の食事会は2週間後に行われるから、すぐにまた会える。慰めるようにその頬を撫でた。
結局あの後は何事も無く過ごしたが、帰りの馬車の中で例の扉のことを考えていた。
何だったんだろう、あの妙な不安感は。
僕はあのメイドから異様な雰囲気を察していた。チェリスの行動も、多少気になる。
小さくなっていくホライス城を眺めながら考え込んでいた。
城に到着した後も、忙しなく僕のやるべき事は続く。嫌な歴史学を淡々とこなし、軽く食事をして、お風呂に入る。メイド達が手伝ってくれる度、昼間の出来事が頭を過っては忘れられずにいた。
寝る前の支度をして、明日の予定を確認する。まぁ、きっとすぐに忘れると思う。僕は些細なことを気にする程、暇では無い。
ただ心を揺さぶる胸騒ぎは、寝る前も落ち着くことは無かった。その日の夜は結局よく眠れなくて、次の日の朝はどことなく寝起きが悪かった。
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