転生してもクソだった

ひるねま

序章

人生半ばで生を終え、転生する者が多くなってきたこの世界。こっちにも、あっちにも、またそこにも不運なことに、前世の生を絶たれ、新たなこの場所で生を授けられている。でも、彼らはアニメや漫画やライトノベルの世界のようには幸せそうには見えなかった。

転生した者の誰もが、幼少期は人生easyモードだと、甘く観ていたに違いない。にも関わらず、そんな転生者だらけのこの世界は、そう甘くはなかった。周りの大人も転生者ばかり。従って、自分の子でもどこかよそよそしい態度を見せる母親や父親達。

まあ仕方もあるまい。

中身がどこぞのおっさんやらオバハンだったりしたら、我が子として可愛がるのは困難かもしれない。

この子は何を考えて母乳を飲んでいるのかしら。

もしや、赤ちゃんプレイだと喜んでいるのかもしれない。

我が子にこんなことを、考える親は今まではあり得なかった。

しかし、仕方がない。

前世の記憶を持った転生者が渋滞しているこの世界では、仕方のないことだったのだ。

 日常会話に、「お前、前世なんだった?」

「俺、成人式目前の夢ある男子大学生」

、「ゴキブリ見て、あまりの驚きでショック死した女子大生」これは、信じられそうにない。何か後ろめたい過去でもあるのだろうか、それか、前世トークの中にもか弱い女子アピールを盛り込む新手のモテ法なのか。

前世の死因や、前世の職業、の話が増えたくらいで、アニメやラノベや漫画みたいに面白い展開にはならなかった。

「おれ、転生したら、剣士になる!!」だとか「私、転生したら聖女様になる!」だとかは叶わないのだった。

  なにか新しいものを…。と、新しいジャンルの小説を書こうと奮闘する売れない作家ヤマネ。

私のペンネームだ。

あえて、転生した先の世界が全く面白くない世界だったらどうなるのか、的なのを書いてみた。

しかし、書き始めて早々話が終わってしまった。

転生した先が全く面白くない世界の話は、全く面白くない話になった。

人々の心を鷲掴みにした『剣と銃のファンタジー』や『剣と魔法のファンタジー』を書いた小説家様ならば、面白く書けたかもしれない。

でも、私は売れない作家。

クソつまらない駄作を再び世に送り出してしまったのだった。

平凡な人間の代表としてここに記そう。

『平凡は平凡なりに頑張っても、待っているものは平凡な結果のみ。』

小説を書き始めて得たものは、この事実だ。

そして、半ば諦めモードで、私はパソコンを閉じた。

そして、目を閉じて、売れない小説家ヤマネは眠りについたのであった。

其れも、深い眠りについたのであった。

 無い語彙力や文章力そして、想像力を絞り尽くされたヤマネこと、山根雄二の脳は再稼働することはなかった。

つまり、彼は全く面白く無い作品をアップしたのち永眠してしまったわけだ。




 売れない小説家山根雄二の小説サイトの常連であり、フォロワーであった神田さんがいた。

ヤマネは生前、『神田さんだけは俺の小説を楽しみにしてくれているんだ』

と、勇気づけられていた。

でも、日常の不摂生と、脳の使い過ぎにより永眠したヤマネを神田さんは、死んだ後も、応援コメントを寄せて、話の続きを待っていた。

永遠に話の続きがアップされないことを知らない神田さんはいつまでも待ち続けた。

彼の寿命が尽きるまで。

ヤマネが永眠して2年後、神田さん82歳も帰らぬ人となってしまった。

神田さんの死因は寿命だった。


ヤマネの死は因果応報だったのかもしれない。

神田さんの残り少ない寿命の一部を、ヤマネ自身も認める駄作に費やさせてしまったのだから。


その罰としてなのか、山根雄二は転生した。

それも、小説家とは程遠い身分に。

さて、これから、ヤマネはどうなるのか。

天国から見守っている神田さんに恥じぬように、生を全うしてほしいものだ。

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転生してもクソだった ひるねま @choppy321

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