第5話 喧嘩してるんですか?
「う、う〜ん。良く寝た・・・ってあれ?」
京子は、起きて不自然に思った。いつも通りの朝に自分の部屋、そのはずなのだが、昨日の夜に自室に戻った覚えがなかった。
夜中にトイレに行った記憶もなかった。
「まぁ〜いいや」
そう割り切って学校の準備をするため、下に降り顔を洗って寝癖を整える。
普段なら翔吾が朝食の準備をしているはずなのにキッチンからは何も聞こえてこない。
京子は、不審に思いキッチンを覗くが誰もいない。
「ちょっと起きてる?遅刻するよ」
翔吾の部屋に行きノックをしながら呼び掛けるが返事がない。
「翔吾、開けるよ〜」
京子が翔吾の部屋の扉を開ける。
だが、部屋にはまだ寝ているはずの翔吾がいなかった。
そんな部屋を見た京子はポツンと呟く。
「朝からどこ行ったのよ、バカ」
そして、部屋の扉を静かに閉めた。
結局、翔吾は家を出る時間に帰って来なかった。いつも、いたりいなかったりで慣れているはずなのに昨日のことがあり京子は少しむくれていた。
その中、合流して登校しているみのりは、首を掲げ京子に言葉を投げる。
「京ちゃん、今日は元気ないね。あ、もしかして翔君と喧嘩でもしてるんですか?」
ここまで顔の暗い京子をみて何か面白いことがあって喧嘩したのかと揶揄い半分で聞くみのり。
京子は、みのりの顔を一目見てゆっくり頷く。
余りの素直さにみのりは目を見開きすぐさま、真剣な顔をして聞く。
「何があったの?」
京子は、どうしようかと迷ったが親友であるみのりに少しでも愚痴を吐けば楽になるかとポツリポツリと話し出す。
「昨日ね、サッカー部のキャプテンから告白されたの」
「うん」
「それでね、断ったんだけど翔吾のやつそれを知っててね」
「それでそれで?」
「なぜ付き合わないのかって聞かれてあんたには関係ないって怒っちゃったの。そしたらね、朝起きたときにいつまで経っても起きて来ないから起こしに行ったらいなくて、なんかモヤモヤしちゃって」
「ふ〜〜〜ん」
みのりは、いつもは凛としてカッコいい親友の落ち込んだ姿を見て自分に打ち明けてくれるなんて、なんて乙女なのと微笑ましく思えた。
「京ちゃんは翔君のこと大好きなのに本人の前で素直になれないなんてツンデレさんだね」
みのりはそう言い、京子の頭を撫でる。京子は、みのりの発言かはたまた撫でられていることに対してか顔を赤くしてされるがままだった。
「京ちゃんが誰とも付き合わない理由は、私は知ってるけど翔君は知らない。翔君は、頭悪いわけじゃないし、鈍感でもないのは京ちゃんも知ってるはずだよね?けど翔君は、京ちゃんの口から言われないことには何も出来ない自分が歯痒いんじゃないかな?」
「そ、それは〜・・・」
「京ちゃんが素直になったらきっと翔君も答えてくれるよ」
みのりは、そう伝えると歩き出した。
そして振り返り京子に言う。
「行こっ。遅刻しちゃうよ」
京子は、完全にはスッキリしてないが少しだけ心が軽くなって歩き出した。
「ちょっと待ってよ〜、みのり〜」
いつかちゃんと翔吾と向き合えたらと思うのであった。
学校に着き、教室のロッカーの上に横たわる芋虫を見るまでは。
「あはは、これは予想外だね」
みのりは笑いながら芋虫を激写する。
京子は、握り拳を作りプルプルと震えていた。
「起きろ、バカ兄貴ぃぃ〜」
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