#49 Their First Meeting / 月野 陽向
「……で、その
会いたい? と
「会いたいんだね?」
詩葉は頷き、スマホに文字を打っていく。
〈私が会わなくちゃいけない人だよ〉
〈その人、まれくんのこと、すごく大事に想っているんじゃないかな。だから、ちゃんと話したい〉
「分かった。じゃあ、まずは
お願いします、と言うふうに詩葉は頭を下げる。真似して陽向もお辞儀して、二人で少しだけ笑う。
詩葉は陽向に抱きついて、耳元で囁く。
「ヒナ、」
「うん?」
「すき、だよ」
かすれた無声音だけど、詩葉の声はしっかりと陽向に響いた。
「ありがと、私も大好きだよ」
詩葉に抱きしめられる力が強くなる。
「迷惑、かけて、ごめんね」
陽向は詩葉を見つめて、はっきりと言い切る。
「迷惑だなんて、私は全く思ってないよ。それが詩葉にとっての向き合い方なら、支えるのが私の役目で……支えられるのが私の喜び、だから」
詩葉のそばにいたいと願いながらも、離れるしかなかったのが希和なのだ。今の陽向には、彼の遺志だって掛かっている。
詩葉と額を合わせながら、陽向は何度目かの誓いを立てる――君の心を、絶対に守り抜くんだ。
*
紡は大学の先輩に付き添われて、信野市を訪れるという。
約束の日、陽向は
到着を待つ間、陽向は穣に訊ねる。
「お父さんもさ、」
「うん?」
「お母さんが海外にいる間に死んじゃったらって、心配になるんだよね?」
陽向の母・
「心配はしているよ。光子さんの任地で何か起きていないか、ニュースのチェックは欠かさずしている」
陽向を宥めることの方が多い穣だが、やはり根は同じらしい。
「ただ。もし光子さんに何かあっても、後悔はしないよ。光子さんがやりたい仕事を応援して、僕が陽向と日本に残ったこと、間違いじゃないって思える。それに僕らは、いつが最後のお別れになっても悔やまないくらい、愛情も感謝も表現してきた」
陽向は穣ほど達観できていないけど、言いたいことは分かる。会える時間は少ないけど、陽向が光子に深く愛されていることに疑いはない。
「だから陽向も、詩葉ちゃんと存分に愛しあって生きてほしい。それに、」
陽向たちへのエールの後、穣は改札の方へ目を向ける。
「好きだって、大事だって、本当のことを言えないままの別れは、きっと苦しいよ」
紡のことを慮る穣の言葉が、陽向の心も締めつける。
「そうだよね……私にできること、精一杯やるよ」
そして、事前に聞いていた服装の女性二人が姿を現す。
どちらが紡か、陽向は話す前に分かった。眼鏡でボブカットの、戸惑いの浮かぶ表情の女性――希和と気が合いそうだな、と思ってしまった。
もう片方、紡を気遣うように寄り添っていた女性が、先に陽向たちへ声をかける。
「
「はい、月野陽向です、こちらが父です。来てくださりありがとうございます」
「こちらこそ出迎えありがとうございます、
「……紡、と名乗っておりました、
穣の運転で飯田家へ向かう。紡はほとんど黙って、流れる景色を見ているようだった。その間、灯恵が
マンションに着いたところで、灯恵は紡に声をかける。
「紬実ちゃん、本当に良いんだね? 今ならまだ、戻れるよ」
希和について詳しく知ることは傷を深めることにならないか、という配慮だろう。
「……大丈夫です、ちゃんと向き合います。今のままじゃ、お別れもできないので」
今はマスコミが来ていないことを確認してから、陽向たちは車を降りる。穣にはまた迎えに来てもらうことにしていた。インターホンを押すと、希和の母の
「お邪魔します、孝子さん」
「ええ、ようこそ
「はい。
「母の孝子です。遠路はるばる、本当にありがとうございます。どうぞ、あの子に会ってあげてください」
和室の仏壇。祖父母と思しき男女と並ぶ、希和の遺影。元は、お姉さんの成人祝いに家族で撮った写真だという。
紡はゆっくりと、希和の遺影と対面した。
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