#17 消失という希望が
冬の気配が濃くなった頃、祖母が亡くなった。持病が響いていたとはいえ、天寿を全うした、と言っていい歳だった。
家族はそれぞれ覚悟できていたこともあり、誰も取り乱すことなく粛々と葬儀の準備が進んでいった。大勢の人と顔を合わせる場を身体は拒むかと思いきや、私は意外と落ち着いていられた。あの学校でなければ大丈夫、ということかもしれない。
父方の祖父母は、幼い私をよく可愛がってくれた。大人の話についていくのも得意だったし、昔の話を聞くのも好きだった。
年月が経って。祖父が病に倒れ、祖母も心身ともにハンデを背負うようになり、かつての温かさは忙しさの中に消えていった。優等生であることを求めすぎた私は、学校に行くことすらできなくなった。
大切なものは、続かない。永遠どころか、十年だって続きやしなかった――祖母のお骨を壺に納めながら、虚しさが込み上げてきた。
しかし、続かないことの裏を返せば。今の私に巣食う悪い感情だって、そのうち消えてくれる、ことになるのかもしれない。
今の私を取り囲むもの全て、移ろってしまえばいい、そうすれば楽になる。幸せではないかもしれないけれど、随分と生きやすくなってくれるだろう。続かないことは、変わっていくことは、きっと希望だ。
……希望、のはずなのに。
痛みも矛盾も連れてくる愛なら、消えてしまった方がいい。理屈は声高にその道を讃える、けれど。
私の人生から、この気持ちが消えるのが怖かった。
これだけ愛しく尊い存在にまで、背を向けてしまったら。今度こそ、自分を信じられなくなってしまいそうだった。
彼よりも大切なものが、彼よりも支えと思えるものが、見つかればいい。自分に似合う居場所を、見つけられればいい。
環境が変わって、時間が経てば、きっとそんな出会いもある。
だから今は深く考えなくていい、そう自らに言い聞かせても。
いつか、彼がこの世界から消えてしまうことが。彼と一緒にいられる時間の終わりが、遅くとも数十年先に必ず訪れることが、ひどく胸を軋ませていた。
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