第3話 盗賊団討伐①

「何故お前と二人で任務に出ねばならんのだ…」

「オレじゃなくて、団長に言えって」


悪態を吐くフィーにそう言葉を返す。

明朝、団長の元へと行くとその場にはフィーも居た。

フィーは槍騎士としてかなりの実力者だし、団長の一人娘でもある。

フォレスを呼ぶのであれば、騎士として何かしらの任務があると思い至る為、彼女がその場に同席している事に疑問も何も抱く事はなかった。


(…もっとも、私はこのイベントを知っているのだけど)


任務は最近頻繁に出没している盗賊団の調査と制圧。

勿論、フィーと共に赴くことも最初から知っていた。

…ただ、そこで彼女は軽めだが傷を負うのだ。

…それを、なんとか阻止出来ないものだろうか…そんな事を考えながら盗賊団が根城にしていると言う森の奥の廃墟を目指した。


「…そろそろ目的の場所だが…やけに静かだな。本当に盗賊共はいるのか…?」

「気配を消しているだけじゃないか? …油断するなよ」

「…フォレス、誰に物を言っているのだ。私は…​──」


ヒュンッ


フィーの言葉を遮るように何かが風を切る音を立たせながら耳元を掠めた。

視線を動かすと…後ろにある木に矢が刺さっていた。


どうやら、この矢が耳元を掠めたらしい。


​「敵襲か…!?」


そう言って携えている槍を構えようとする彼女を制した。

何度も言うけど、私はこれから起こるイベントを知っている。


「あー! もう! 全っ然あたんにゃい!!」


…思った通りの声が聞こえてくる。

見つからないように注意しつつ、その声のした方へと視線を向けると…猫耳の生えた一人少女が悔しそうに地団駄を踏んでいた。


「道具が悪いのかにゃ…でも、お頭はお前の腕が悪いって言ってたし……むー」


地団駄を踏んでいたと思ったら、今度はシュンと項垂れる。

コロコロと表情の変わる、面白い…失礼、可愛い子だった。

ゲームを一通りクリアしている私は彼女の名前も、この後の展開も分かっているのだが…紹介は後程にしておこう。


「……何をしているのだ、彼女は」

「……さぁ」


敢えてそう答えておいた。

この後の展開を知っていて、それを語ってしまえばフィーに不審な目を向けられるのは明らかだ。

…こんな事で、頼れる仲間とギクシャクするのは馬鹿らしい。


「…本当に何も、…ぁ…いや、何でもない」

「……? なんだよ」

「何でもない、忘れろ」


フィーが何かを言いかけて…止めた。


…え? あれ? こんな台詞、あったかな…。


勿論、一言一句ゲーム内での会話を覚えている訳では無いけど…フィーのこの台詞には全く覚えがなかった。

…私が転生した影響で少し変化が現れているのだろうか…。


…そんな事を考えている間にもイベントは進行していく。


「おーい、ミケ。…なんだぁ? また練習してやがったのか。…お前、弓の才能ねぇから辞めておけって言っただろ?」

「あ、お頭…でもでも! ミケはお頭みたいになりたいにゃ! だったら弓もちゃんと扱えるようにならないとダメにゃ!」

「だーかーら! 人には向き不向きっつーモンがあんだよ。…ミケは誰よりも素早く動ける。そっちを活かせってアタシは言ってんだ」


そう言ってお頭と呼ばれたワーウルフの女性は少女の頭をわしゃわしゃと撫でた。

それが嬉しかったのか、先程まで寝ていた猫耳がピンッと起き上がる。


なんか微笑ましいというか、可愛らしいというか…。


そう思って隣を見ると…


「………」


フィーがフルフルと身を震わせていた。

……実は彼女は可愛いものが大好きなのだ。

周りには隠しているのだけど…隠しきれていない。少なくともクリスにはバレている。

…私も勿論知っているけど…ゲーム内のフォレスは鈍感なので気付いていた描写はなかった。


(…ちょっとからかってみようかな)


そんな悪戯心が湧いてきた。


「…相変わらず可愛いものが好きだな、フィーは」

「……!? な、何を言って…!?」


顔を真っ赤にしながら驚いたような反応を見せる。

そりゃそうだろう、バレていないと思った相手にいきなり指摘されればね。


まあでも…こうやって私がゲーム上のシナリオにはなかった台詞を口にしてもちゃんと反応する、生きた人間なのだと再認識出来た。

それなら、さっきの台詞も…いや、もう台詞がどうのは考えるのはやめよう。


きっと、これからもちょっとした変化は起きていくはずだから。


「フォレス、その事を誰かに言ったら…解っているだろうな…?」

「言わないよ。出来ればオレだけが知っていたいからな」

「……ぇ、…」


自然と出てしまった言葉に、彼女は顔を真っ赤にした。

それを…可愛い、なんて思ってしまって内心慌てる。


「……じゃなきゃ、こうやってからかえないだろ?」

「…覚悟しろ、フォレス。一突きであの世に送ってやる」

「冗談だって…!」


槍を構えた彼女を慌てて制し、宥める。


……見てる人、そろそろ思うでしょ?

盗賊がいるかもしれない所で何してんだお前らって。


その感情は、正解。


だって…


「…終わったかぁ? じゃあ、そろそろテメェらがなんなのか教えてくれや」

「!?」


見事に先程の二人に居場所がバレ、これまたゲーム内のシナリオとは微妙に異なる展開へと進んでしまったのだ。


(アドリブは入れるものじゃない…)


小さく息を吐き、そう後悔をするのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る