第15話 互いの感謝

 カップルコーデのコーナーに綺麗に並べられてある服を見ていくと、あることに気が付いた。

 このコーナーに並んでいる服は俺が想像していたようなカップルコーデの服とは少し違うようだった。


 今までカップルコーデというのは全く同じデザインが描かれている服で、女性用と男性用で違うのはサイズだけだと思っていた。しかし、実際はデザインも服の形も異なっていた。


 ベースとなっているデザインは同じものだけど、男性用は男性の好みに近いかっこいいデザインで、女性用は女性の好みに近い可愛いデザインが描かれていた。

 なるほど、最近はカップルコーデでも全く同じ服というわけではないんだな。

 これなら、他の人と同じような服を着てペアルックをするのが苦手な人でも手に取りやすそうだ。


 ふと隣を見てみると千冬さんがカップルコーデの服を夢中になってみていた。もしかして、千冬さんはこういう服が好きなのだろうか。でも、さすがにカップルコーデの服を容易に「買いますか」とは言いづらいのが現実だ。

 彼氏ですらない男とカップルコーデの服を買うなんて嫌だろうし……。


 そうやって悩んでいると、千冬さんがじっとこちらを見つめていることに気が付いた。


「千冬さん、どうかしましたか?」


「葵くん、これ」


 千冬さんが指差した先には紺色のカップルコーデのパジャマがあった。

 確かにこれなら着ても恥ずかしさはないと思う。とは言え、やっぱりこういうのは恋人同士で買うものなのではないだろうか。


 いや、俺はこれまで千冬さんにとても良くしてもらっている。今回は俺が恩を返す番なんじゃないか?


 俺はもし勘違いだったら怖いので、一度聞いてみる。


「もしかして、このカップルコーデのパジャマが欲しいんですか?」


 千冬さんはこくり、と頷いた。


 ここは俺が勇気を出すべき場面だ。

 俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。


「俺とカップルコーデをすることになるんですけど、本当にいいんですか?」


「うん! 逆に葵くん以外の男とカップルコーデなんてしないよ」


「それじゃ、コラボの日に着る服を買うついでにこのパジャマ買いましょうか」


「いいの?!」


「俺も千冬さんとだったらカップルコーデしても嫌じゃないし、むしろ嬉しいです」


「そっか、ありがとう」


 千冬さんはほんのりと頬を赤らめる。

 それを見てドキッとしてしまった。


 このやり取り、まるでお互いに愛を語り合ってるみたいで少し恥ずかしい気もするけど、嬉しいのも確かだ。



 カップルコーデのパジャマを店で用意されている買い物かごに入れて、コラボで着る服を選ぶために別のコーナーへと足を運んだ。


 この店は服の品揃えがとても多く、選ぶのに時間が掛かってしまいそうだと思っていたが、千冬さんが代わりに選んでくれて予想よりも早く俺がコラボの日に着る服が決まったのだった。


 俺はファッションにうといので、自分にはどういう服が似合うのか分からなかったので千冬さんが選んでくれたのはとても有難かった。

 これからは千冬さんからファッションについても学んでいけたらいいな。千冬さんだけじゃなくて、今の俺には雪さんや六華もいるのだから、ファッションについて学ぶ機会はたくさんあるだろう。


 今の俺は誰に聞かれても「幸せ者だ」と即答できる自信がある。

 過去の俺では考えられなかったことだ。


「千冬さん、いつもありがとう」


「ん? 急にどうしたの?」


「いえ、今の俺は本当に幸せ者だなと思って」


「葵くんがそう思ってくれてて良かった。私も葵くんと出会えて幸せだよ。こちらこそありがとうね」



 俺と千冬さんは互いに見つめ合いながら花が咲いたような笑顔を見せていた。


「千冬さんが服を選んでくれたおかげで時間が余ったので何か食べに行きましょうか」


「そうだね、お腹もすいてきたからちょうどいいね」



 2人でショッピングモールのフードコートで食事を済ませてからまた手を繋ぎながら帰路についた。



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