第8話 突発コラボ配信
俺たち4人はお菓子をつまみながら、色々と話した。
最初は、白井雪さんのことをフルネームで呼んでいたのだが、他2人みたいに下の名前で呼んでほしいと言われたので、俺は彼女のことを雪さんと呼ぶことになった。
会ったばかりで下の名前を呼ぶというのはやっぱり少し恥ずかしい気分になるけど、それもすぐに慣れるだろう。
「あ、そうだ」
お喋りをしていると、六華が何かを思いついたようで千冬さんに尋ねる。
「配信用機材を借りてもいいですか? 30分から1時間ほど」
「ん? 別に良いけど、何に使うの?」
「今から少しだけ配信させてもらえませんか?」
「なるほど、そういうことね! 全然使っていいよ!」
「ありがとうございます。配信タイトルは、【ウサちゃんの家から配信中!】ですかね?」
「うん、良いと思う! コラボ配信でもいいんじゃない?」
「え、いいんですか?」
うん?
今からコラボ配信するんですか? 俺、1人になっちゃうんですけど……と思っていたけど、雪さんは俺が1人になってしまうことに気が付いたからか、「私はいいよ。葵くんとお喋りしとく」と言っていた。
正直、助かる。
雪さんと2人で話すのも緊張はするけど、1人で待つのは少し寂しいから、雪さんが残ってくれたのは有難い。
千冬さんと六華は配信部屋へと向かって行った。
「雪さんは行かなくて本当によかったんですか?」
「ふふ、いいんだよ。私は葵くんと話したかったし」
俺が雪さんに聞くと、雪さんは笑顔を見せながらそう答えた。
俺はその笑顔を見ると、少しほっとした。
千冬さんと六華が配信を終えるまでの約1時間。
俺は雪さんとお喋りをすることにした。できるだけ多くVtuberという職について聞こうと思う。
会う前はどんな人なのか少しだけ不安ではあったけど、会ってみるとわかる。とても優しい人だ。
というか、俺が会ったVtuber全員良い人過ぎるんだけど。
全員とは言っても、3人だけなんだけどね。
*****
千冬さんと六華は配信部屋で配信の準備をし、すぐに配信を始める。
「今日は六華の枠で配信するってことでいいんだよね?」
「はい、大丈夫です!」
「今、プライベートな雰囲気だけど、配信中は互いに本名を言わないように気を付けないとね」
「そうですね」
Vtuber界隈では、配信内で本名を言ってしまうと、すぐさまネット上で拡散され、中の人がバレてしまうということが起きてしまう可能性もある。
なので、Vtuberをやっている人たちは配信中に本名を絶対に口にしないように細心の注意をはらっているらしい。
「よし、配信スタート」
六華が配信開始ボタンをクリックすると、配信が開始された。
『こんもも~! 桃色花だよ~』
【チャット】
:お~始まった!
:予告なし配信?!
:まさかこの時間に配信があるとは……
:こんもも~
:こんもも~
配信が始まると、予告なしの配信だったこともあり、桃色花のファン『桃フレ』たちが驚いているようだ。
チャット欄の流れも爆速だ。
『みんなごめんね、急に配信始めちゃって~。急に始めたのには理由があってね、今日はなんと! 急遽コラボすることになりました~!』
『こんウサ~! 兎野ウサです~』
【チャット】
:ウサちゃん?!
:!?
:!!!
:こんウサ~!?
:なんで!?
:最高過ぎる!
:推しと推しのコラボだー!
反応を見たところ、桃色花のリスナ―たちも喜んでいるようだ。
まあ、兎野ウサも桃色花も『バーチャライブ』を代表するVtuberだ。喜ばない人の方が少ないだろう。
そんな2人の告知なし配信。
2人のファンたちは大盛り上がりだ。
桃色花はファンたちの反応を確認すると、この配信を行うことになった経緯を話し始める。
『今日、なんでコラボ配信をすることになったのかだけど、ウサちゃんの弟を見に来たの! そしたら、なんとびっくり私の友達だったんだよ!』
『私もびっくりしたよ~』
【チャット】
:ウサちゃんの弟、気になりすぎる!
:てことは、今、花ちゃんはウサちゃんの家にいるんだ
:ウサちゃんの弟が花ちゃんの友達!?
:ウサちゃんの弟すげぇ……
:2人が配信してるってことは、弟くんは1人で待ってるのかな?
:↑そうなるのかな
『あ、今、ウサちゃんの弟はリビングでミケちゃんとお喋りしてるよ』
『あの2人、仲良くなりそうだよね~』
『うん……』
なぜか桃色花はムスッとする。
それを見た兎野ウサはからかいながら言う。
『嫉妬しちゃったの~?』
『そうじゃないけど、ミケちゃんいいなーと思って』
『それを嫉妬って言うんじゃないの? まあ、配信が終わったらすぐ会えるんだからいいじゃん! ね?』
『そ、そうだよね!』
【チャット】
:ミケちゃんもいるの!?
:今ごろ、ミケちゃんと弟くんは仲良くなってるのかなあ
:弟くん羨ましい……
:花ちゃん嫉妬してるかわいい
:早く弟くんデビューしないかな
:コラボのときはウサちゃん、お姉ちゃんみたい
:ウサちゃんの弟に生まれたかった。
:早く兎野ウサの弟の声聞いてみたいな
この配信では、その後も兎野ウサの弟について語り合う配信が行われたらしい。
チャット欄で羨んでいる者が多く見受けられたが、アンチのような人はおらず、みんな兎野ウサの弟のデビューを待ち望んでいるようだった。
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