第7話 幸せ
「え、六華……?」
「葵先輩……?」
俺は驚きが隠せず、表情に出てしまっていたと思う。
だが、それは六華も同じようだった。
驚きの表情を見せながら固まる俺たちを見ていた千冬さんが気を利かせてくれた。
「2人とも知り合いみたいだし、話したいこともあるだろうし、とりあえずリビングに行こうか」
「は、はい……」
俺と六華は千冬さんと白井雪さんに連れられてリビングへと移動した。
千冬さんたちは俺たちをリビングに移動させると、「2人で話したいこともあるだろうから私たちは別の部屋にいとくね。何か用があるときは呼んでね」と言って、別の部屋へと行ってしまった。
数分間の沈黙が続いた。
「「あの……!」」
この空気を変えようと、俺は声を掛けようとしたのだが、それは六華も同じだったようで俺と六華は同時に口を開いていた。
その後、俺たちは互いを見合って笑いが起きた。
「ふふ、タイミング全く同じでしたね」
「ああ、そうだな。完璧すぎるくらい同じだったな」
そこからは普通に話が進んでいった。
普段なにしてるのかとか、趣味の話だったり色々。
でも、俺は話しながら考えていた。
六華に親と親友に見捨てられてしまったことを言わないといけない。
そもそも、俺が千冬さんの家にいる時点で何かがおかしいということには気づいているだろう。それでも、何も言ってこないのは俺から話してくれるまで待っているではないだろうか。
本当に六華は優しい。
俺も覚悟を決めて話そう!
「なあ、六華。話したいことがあるんだけど」
俺は勇気を出して見捨てられてしまった話を切り出した。
「はい、なんですか?」
「俺が千冬さんの家にいる理由って知ってたりする?」
「いや、わからないです。まあ、何かしら訳ありだとは思いますけど」
「今から話すことは俺がここにいる理由についてなんだけど、少し重い話になるかもしれないけど、聞いてくれる?」
「もちろんです! 葵先輩の話なら最初から最後まで全部聞きます!」
六華は本当に良い友達だ。
俺が高校に通っていたころもこうして俺のことを慕ってくれていた。
俺は彼女に話し始める。
「実は、俺の家の家庭環境は最悪でさ、母親から高校の卒業式の前日に家を出て行くように言われちゃったんだよ」
「お母さんに……。だから、ここにいるんですね」
「それだけじゃないんだ。翔也って覚えてる?」
「葵先輩がいつも一緒にいた人ですよね?」
「そう。俺は卒業式当日に翔也に家に泊めてもらえないか聞こうとしたんだけど、あいつに見捨てられちゃったんだよ。やっとお前と離れられるって言われたんだよ。親友だと思ってたんだけど……な……」
思い出すだけで、泣いてしまいそうになる。
六華の前だから、泣かないように必死に我慢している。
俺は涙を堪え、話を続ける。
「そして、千冬さんが途方に暮れていた俺を拾ってくれたんだよ。それがここにいる理由」
「うぅ」
「六華?」
「そんなの悲しすぎるよ」
六華は俺の話を聞いて泣いてしまった。
俺のことを良く思ってくれているからこそ、今の話を聞いて涙してしまったのだろう。
そういえば、千冬さんにも初めて今のことを伝えたとき、同じような反応してたなぁ。
六華は涙を拭い、落ち着くと、ハッとしてもう1つの疑問を俺に聞いてきた。
「葵先輩がここにいる理由はわかったけど、Vtuberになるっていうのはどういうこと? それに、兎野ウサの弟としてデビューするって」
そっか。
そのことについても話さないとな。とは言っても、自分でもまだ信じられないような気持ちだが。
「自分でもまだ半信半疑なんだけど、千冬さんの提案でVtuberになることになったんだよ。そして、兎野ウサの弟っていうのは、バーチャライブの社長が決めたんだよ」
「そうだったんだ。兎野ウサの弟としてデビューするっていうのは私も良いと思います」
「そうかな?」
「そうじゃないと、千冬さんと一緒に住んでるのがバレたときに大変なことになりますからね!」
「たしかに……」
「葵先輩がVtuberになるのか~。これからは、同業者ってことになりますね! 会う機会も増えると思うので、嬉しいです!」
「そっか、同業者ってことになるのか。俺も六華と会える回数が増えると思うと嬉しいよ」
親に見捨てられて、親友にも見捨てられてしまった俺は本来なら暗い人生を歩んでいくはずだった。だけど、俺には俺を支えてくれる人たちがいるんだ。
もう、暗い人生を歩む必要はないんだ。
六華の笑顔を見ていると、俺はそんな気持ちになった。
俺と六華はその後も色々話をした。
特にVtuber関連のことを多く話していた。
それから少ししてから、千冬さんと白井雪さんがリビングに戻ってきた。お菓子やジュースを持ちながら。
「2人とも結構喋ってたね。仲良かったんだね~」
「はい、六華は高校で俺の後輩だったので」
「そうだったんだ! それじゃ、今度は4人でお喋りしようか!」
そう言うと、千冬さんと白井雪さんはリビングのテーブルの上にお菓子とジュースを置いた。
なんだか、この空間がとても幸せに感じた。
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