最終話 本当に大切な歌!

「あれ? どういうことですか?」

「ワシが、何も調べてへんと思ってたんか? 大方、【呪歌】でどないかしようと思っていたんとちゃうか?」


 そうだ。人語を解する監督といえど、ローパーだ。いわゆる魔物である。モンスターならば、呪歌で倒せるのではという望みはあった。


 それが、粉々に打ち砕かれる。


「あんたの歌声を、ギターになったワシが調律しとるんや! これがあったら、あんたは立派な歌手になれるんや!」 


 こんなにも気持ちよく歌えたのは、初めてだ。ローパー監督がいれば、自分は歌をオーディエンスに届けることができる。


 しかし、この歌ではみんなを助けることができない。キャラリーを沸かせることだって。


 切り札を無効化されて、セラはギターを弾く力が弱まっていく。


「セラ、歌っていい! もっと歌うんだ!」

「ナオさん?」


 顔を上げると、ナオがセラに笑顔を送ってきた。


「あんたはもっと歌って! 大丈夫、自分を信じるんだ!」

「はい!」


 ナオに励まされ、セラは更に歌う。


「ムダや! 音痴でなければ、あんたの呪歌も怖くない! どや! もっと歌ってみい!」


 ローパー監督が、さらにセラを煽る。


 それでも、セラは歌い続けた。ナオにはきっと、考えがあるから!


 ああ、気持ちいい。でもなんだろう。なにか違うような、物足りないような。


 歌いながら、ナオと見つめ合う。


 そうか。足りなかったのは、これだったんだ。


 セラは、歌いながら気づいてしまう。自分に、何が足りないのか。


 それでも、セラはみんなを助けるために歌い続ける。


「やけっぱちかい! ええやろ! 何をやっても勝ち目はないと思い知れば……ばあん!」


 ローパー監督が、突然爆発した。


「あ、あれ?」


 急に楽器がなくなり、セラは手持ち無沙汰に。


 バラバラになった監督が、ピクピクとケイレンする。ジリジリと集まって、首だけの状態にまで戻った。


「な、なんでや! ワシの作戦は、完璧やったのに! セラちゃんをワシなしでは生きられへんくする作戦が!」

「ムリだよ。呪歌はやっぱり呪歌なんだ」

「なんやと?」

「セラの歌は、音痴だから呪われているんじゃない。自己防衛のために、音痴になったんだ」


 ナオはレティと、呪歌の研究を重ねていたという。


 結果、セラは「呪歌を持っているから音痴になった」と結論づけた。


「呪歌はスキルやのうて、生まれつきやっちゅうんか?」

「ああ。そういう体質の子なんだ。魔物よけの異能力。あんたにセラを、一生思い通りになんてできないんだ」

「さよか。儚い恋愛やったなぁ。せっかく虚構の、偽りの愛から開放されると思っとったのに」


 そのまま、監督は黙り込む。


「セラちゃん、ワシに春は来ないんか?」

「きっと、他にいい出会いがありますよ」


 セラはそう言い残し、ダンジョンを出た。


「待ってーな」


 足を止めて、セラは振り返る。


 ほぼ再生を終えた監督が、立ち上がった。


「ワシと組んだら、あんたは世間から認められる。一流の吟遊詩人になれるやろう。それでもワシと組むんはイヤか?」

「おっしゃるとおり、歌うのはいいかもしれません。でも、それじゃあわたしじゃないんです。きっと」


 自分はただ、歌いたかっただけなのだ。


 それは、人を満足させられるかというと違う。自分のために歌っていた。

 自分は、ギター弾きがいい。改めてそう思った。ナオの役に立つことが、自分にとって本当に大切なのだ。


「いいんです。だってわたしたち、二人で一人ですから! だから、パートナーはナオさんじゃなきゃダメなんです」

「さよか……きばりやっ」

「一瞬でしたが、夢をありがとうございました」


 今度こそ、セラはダンジョンを去っていく。


「セラ……」

「すいません。カッコつけちゃって。行きましょう、ナオさん。みんな待っていますよ!」


 セラは、ライブへと急いだ。




 会場は相変わらず、超満員である。


「みなさんこんばんは! 【なんだ、あのデッカイもの】です! 実は今日、みなさんにお伝えしたいことがあります!」


 ライブの前に、ナオがそう宣言した。


 ムロもレティも、首をかしげる。どうやら、打ち合わせにはなかったことらしい。



「実はウチ、ギターを弾いていません! 隣りにいるセラが、代わりに弾いてくれていたんです! 裏切っていて、本当にごめんなさい」



 会場が、ザワザワと騒ぎ始める。


「ナオさん!」


 セラが話をやめさせようとしたが、ナオは首を振って聞かない。


「ウチは最初、セラをウチの演奏代理として雇いました。でも、一緒にいてわかった。ウチとセラは、二人で一人なんだって。セラが弾いて、ウチが歌う。これでひとつの音楽になるんだって。それを教えてくれたのは、間違いなくセラです。セラ、バンドに入ってくれてありがとう!」


 戸惑っていた観客から、ポツポツと拍手が送られる。

 それは大きな波となって、会場を包み込んだ。


 ナオと二人で一人だといってしまったのは自分である。

 言ってしまって、後悔していた。なんて、おこがましいのかと。


 でも、ナオも同じ気持ちでいてくれていたなんて。


「さて、では一曲聞いてください! いくよセラ!」


 ナオのコールで、セラがギターを掻き鳴らす。



 二人で一人の歌が、始まった。

 

(おわり)

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音痴なせいで追放された旅芸人、吟遊詩人に転職して神ギタリストに 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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