ライブで婚約宣言!

 会場には、東の大陸覇者グァルディーニ王国の国王夫妻が来賓していた。ムロの両親である。


「大陸でも名前が知れているって、すごいバンドですね!」

「最初にウチに目をつけてくれたのは、ムロだったのよ」


 セッティングしながら、セラはレティと語り合う。


「当初は、ウチらにムロが色々と都合をつけてくれてたんだ。ホテルのグレードとか、ファンを避ける抜け道とか」


 そのうちにバンドが全世界で知られるようになってからは、レティが全部仕切るようになった。


「マネジメントを外注せずに身内がしているのは、ムロさんの存在を隠すためだったんですね?」

「それもある。けれど一番の理由は、外の力が入ることでウチらの持ち味が死んでしまうことかな?」


 音楽性や民族性など、「もっと売るために」という圧がどうしても入ってくる。

 下手に従うと、彼らの方がバンドを当てにしてしまう。それでは、彼らを儲けさせるためのバンドに成り下がる。ナオはそれを恐れたのだ。


「最初、セラを入れるのも色々と揉めた。でも、あんたの人柄を見て全員が採用で一致したんだよ」


 こんな最高のバンドに拾ってもらって、セラは幸せだ。


 だから、ムロにも幸せになってほしい。


 セラの提案は、そんな気持ちからである。



「みなさま、本日はお越しくださってありがとうございます」



 一人の少女がステージに上った瞬間、会場のボルテージがマックスになった。


 アンブロジア王女が、数年ぶりに姿を見せたのである。アンブロジアことムロは、いつもの乱暴な口調を控え、おしとやかな話し方をしていた。衣装もキグルミではない。黄色いドレスである。


 当然、これに驚かない国王夫妻ではない。


「お父様、お母様、今まで姿を見せなくてごめんなさい!」


 ステージ上で、国王に頭を下げる。


「今日は、ストポ半島領主である、セプコネ王子のプロポーズにお返事したいと思います」


 地響きがするほど、会場がどよめいた。


「王子、こちらへ」


 ムロが、ステージ最前列にいる王子をステージに上げた。


 褐色天パの王子が、照れくさそうに舞台に上がる。


「セプコネ王子、今までお返事を先送りにして、申し訳ありませんでした。私は、世界中を回って、我が国が今こそ何をなすべきが、見聞を広めてきたのです」


 面白いように、ムロが口からでまかせを言う。


「私は彼女らによって、保護してもらっていました。バンド活動のかたわら、魔物や悪漢共から私を守ってくれていたのです。私もバンドのメンバーを仮の姿として、身を潜めていました」


 嬉々としてモンスターを大剣で叩き潰しているのは、王女の方なのだが。

 

 周りはそんなこと、思ってもいないだろう。


「あなたのプロポーズ、謹んでお受け致します。ぜひとも、私を妻にしてください」


 王子は、喜びを噛み締めつつお辞儀をする。


 国王夫妻もうれしそうだ。




「ですが、我が国には帰りません!」




 さっきまで喜んでいた国王夫妻が、凍りつく。


「待ってくれアンブロジア! これは、いったいどういうことだ?」

「国に帰らず、こちらでお世話になると言ったのです。それでよろしければ、王子の求婚をお受け致します」

 

 さらに驚愕する両親たち。


 さしもの王子も、困惑していた。


「それでは意味がないだろ! このままだと、我が国力が維持できなくなる! アンブロジアが王子を連れてくることが頼みの綱だったのに!」


 国王が、本音らしい言葉を漏らす。


 悲しげな表情で、王子がうつむく。


「あーもう! いいかげんにしろよなーオヤジはよぉ!」


 とうとう、ムロが本性を表した。


「そういうところがダメなんだよ! あんたはもう限界なんだ。国が傾いているのは、あんたのせいだろうが! 民主化しちまえってんだ! 国民が信用できねえのかよ?」


 ガニ股で、ステージからムロが国王にガンをたれる。


「あたしは信じるぜ! いろんな世界を見てきて、やっぱあたしの国は地べたにいようが立ち直れるっての!」



 なぜかムロが、ナオからマイクを取り上げる。


「今日は、あたしが歌うぜ! 母国のために! ミュージックスタート!」


 セラが、ギターをかき鳴らす。


 地獄の亡者の如き声を、ムロが発した。


「え、デスメタル!?」


 リハーサルと違う! 

 全部アドリブじゃないか! 

 ぶっ壊れている! 

 曲もメロディも芸風も全部が! 

 もっとブルースっぽかった歌にする予定だったのに!



 もはや、ついていくのがやっとである。

 こちらもアドリブで、即興メタルを披露した。

 盛り上がっているから、正解なのだろう。



 ムロに置いていかれないように、レティは首をブンブンと振りながらスティックを打つ。

 どうして今日はレティがドラムに回っているのか、その謎がようやく解けた。このためだったのか。


 ムロが盛大にシャウトしては、ナオがメロディアスな歌声で場を浄化する。

 なんにせよ、恐るべきはムロだ。よくもまあ、あれだけ舌が回る。早口でデタラメな歌詞をまくし立て、会場を沸かす。


 ステージは置いてけぼりどころか、王女がヒートアップするたびに手拍子が鳴る。


 一曲を終えると、怒涛のような歓声が上がった。

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