消えたプリンセス!

 セラがナオのバンドに加入して、もう一週間になる。


 今日も、ライブは大成功に終わった。今、その打ち上げをしてる。


 ライブでセラがギターを引いていることは、バレていない。

 客からは、賑やかし枠と見なされている。


 ダンジョンでは、セラがあらかじめ歌ってモンスターを排除してから、安全にアイテムを漁ることになった。決して、他のメンバーが楽をしているわけではない。セラのレベリングなのだ。


 より強力なダンジョンを攻めるには、セラのレベルアップが必須になってきたのである。


 これまでセラは、ろくな戦闘経験もなく過ごしてきた。冒険者として生きるためにも、自力で戦うスキルを身につける必要性が出てきたのである。


「それにしても、セラに【呪歌じゅか】のスキルがあったなんて」


 メンバーで唯一酒に手を付けながら、レティが言葉をこぼす。


「呪歌、とは?」

「精神攻撃の一種よ。呪いのこもった歌で、相手の息の根を止めるの」


 レティはライブやダンジョン攻略の合間、魔法学校やマジックアイテム店から手に入れた書物を、片っ端から読み漁っていた。結果、セラの特殊能力に気づいたという。


「ひええ。じゃあ、うかつに歌っちゃダメですかね?」

「いわゆる魔物特効よ。人には効かないわ」

「だといいのですが」


 ひとまず、ライブとダンジョン攻略を続けることに。


「他にも、やりたい依頼とかはあるか?」

「気になるミッションはございます!」


 セラがみんなに見せたのは、たずね人のチラシである。


「消えたプリンセスの捜索です!」


 途端に、ムロがパスタを吹き出す。


「だって、優しいナオさんがこの依頼だけスルーしているのって、おかしいじゃないですか!」

「まあな、事情はあるんだ」

「あの王女様なー。人間性が最悪なんだよなー」


 頭をかきながら、ムロがつぶやく。


「会ったこと、あるんですか?」

「ま、まあなー。そういえば、無理やりライブをやらされたんだよなー」


 ムロが、ナオに話を振る。


「え?」


 しかし、ナオは覚えていない様子だ。


「ええ。覚えているわ」

「……ああ、あったあった、そんなこと! 思い出したよ! 強引に連れてこられたんだよ!」


 ようやく、ナオも思い出したようである。


「それっきり、王女様の印象が最悪でさ。関わりたくないんだ」

「なるほど。よくわかりました。問題のある方だと」


 ムロが、ブンブンと縦ノリのように首を振った。


「ああ、ああ。お城を抜け出すほどには、超オテンバだな!」


 暇になったらしょっちゅう城を出て、街まで散歩していたらしい。衛兵たちの出動目的も、街の犯罪を取り締まるより消えた姫を探す方が多かったという。


「そこまで問題児だったんですね」

「だろー? だから、そいつは殺しても死なねえから。安心しろって」

「そうはいきません。ご両親の国王様は心配していらっしゃるのでは?」

「だから、そのご両親が大っ嫌いだから街に出てたんだよ!」


 突然、ムロがテーブルを叩いて怒鳴った。


「あ……」


 ギャラリーの視線が自分に集中していることに気づき、ムロは静かに着席した。


「怒鳴ってすまん、セラ」

「いいえ。それにしてもムロさん、お姫様のお気持ちに敏感でいらっしゃいますね?」

「あー、そそそ、相談に乗っていたんだよなー。両親と打ち解けられねえって」


 なんでも、姫は隣国の王子と結婚が決まっているらしい。しかし、あまり乗り気がない。


「王子がイヤなヤローだったら、こんなに悩まなかったんだよなー。そいつめちゃいいヤツでさー。姫様の夢にも寛大だったんだよなぁ」

「姫の夢とは?」

「あ、ああ。世界征服とかいっていたっけな?」


 随分と壮大な夢である。


「だったら、なおさら王子様とご結婚なされたらよかったのでは?」

「結婚したら城にずっと暮らさなきゃいけなくなって、バンドを続けらないだろ!?」

「バンド?」

「あああああいやいや、じゃなくって! そう、ブロードバンド! わかるか?」


 セラはコクコクとうなずいた。


「世界征服ってのは裏でコッソリやるもんだろ? 影からブロードバンドに行きたいわけよ姫としては!」

「ワールドワイドでは?」

「どっちでもいいだろー?」

「ふむふむ」


 珍しく、セラのほうがツッコミに回っている。


「姫のやつ、多分両親のことなんかぜーんぜん気にしてないぞー」

「そうなんでしょうか?」

「うんうん。両親はおしとやかさを求めているから……ってんで、イヤなんだってよ!」


 王子はいい人なのだが、両親は習い事などをやたらやらせたがるので、キライだったとか。


「まるで見てきたかのような意見ですね」

「別にいいだろー? もうこのお話は終わりなー」

「あ、はい。ごちそうさまでした」


 特に希望はないので、次回も引き続きダンジョンでトレジャーとなった。


 その夜、セラはお風呂場に明かりがついてるのに気づく。

 いつもは歌って踊ってなのでクタクタですぐ寝るのだが、今日はムロの様子が気になって眠れなかった。


「あれ、ムロさんですね?」


 着替えを見ると、どうやらムロらしい。たしかに、ムロはセラと一緒に入浴したがらなかった。


 これはチャンスでは? セラはおもむろに服を脱ぐ。


「ムロさん、差し支えなければ一緒に……って?」


 たずね人の王女が、風呂を使っていた。

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